続「道をひらく」松下幸之助 ⑮
・さくら
さくらのつぼみが日に日にふくらんでいる。長く寒い冬を、小枝にし
がみつくようにして耐えつづけてきたのが、きょうこのごろはふっく
らと色づいて、花ひらく日の喜びを春風に託している。桜花らんまんを
待って浮かれるのもよいけれど、色づくつぼみを仰いで、その耐えて
きた日々をそっとねぎらうのも、また人間らしい思いやりであろう。
人の歩みの花ひらくのも、長く辛い忍耐の末にあるのかも知れない。
だからこそ、耐えぬいた人生の開花を見るとき、人は惜しみなく賞賛
をおくる。
しかしまた、未だ花ひらかず、じっと人の世の寒風に耐えているささ
やかな歩みに対しても、心をこめたいたわりとはげましを与え合うのも、
人間だけができる思いやりの世界であろう。
人の心が乱れてくると、ともすれば耐えることを忘れ、讃えることを
忘れ、いたわりとはげましの思いやりも忘れがちになる。そして人の
世の乱れはさらに増す。
せっかくのこの季節、さくらのつぼみを仰いで、しばしわが心を省み
たい。
● 賞賛
● 讃える
「称える」と「讃える」はどちらも「たたえる」と読みます。
意味は、どちらもほめる・賞賛するです。意味に違いはありませんが、
「称える」は常用漢字の表外読み、「讃える」は常用外漢字という
違いがあります。どちらも新聞や公的文章では使用されず、一般的に
は「たたえる」と平仮名で表記されます。
● 省みる
この続きは、次回に。