続「道をひらく」松下幸之助 ㉑
・花ひらく
春ともなれば花ひらく。天地の恵みを素直にうけて、形さまざま色とり
どり。小さい花は小さいなりに、大きい花は大きいなりに、かれんな
いろどり、けんらんたる装い。精いっぱい恵みいっぱいの喜びを咲き
誇る。人の心にも花がある。どんな人にも心の花がある。形さまざま
色とりどり。
いずれにしても、その花は自他ともにひらかせねばならない。精いっ
ぱいの喜びに、力いっぱい咲き誇らねばならない。冷たい風には花は
咲かない。かたくなな心には花はひらかない。暖かい風とふりそそぐ
太陽がほしい。そして、ほのぼのと通い合う人間としてのつながりが
ほしい。
お互いに人間である。本来、憎しみ合うべき何ものもないはず。お互い
人間としての誇りと喜びのうちに、肩を叩き合い、手をにぎり合い、
力をつくし合って、人間としてのかれんなそしてけんらんたる花を
ひらき合いたい。
その人間が寄り合っての国家である。国家の粋は人間集団の粋。
国の花もひらかせよう。国とりどりに、人間集団としての香り高い花を
ひらかせよう。
● 粋
1. 気質・態度・身なりなどがさっぱりとあかぬけしていて、しかも
色気があること。また、そのさま。
「―な姿」「―な柄」「―な店」⇔野暮 (やぼ) 。
2. 人情の機微、特に男女関係についてよく理解していること。
また、そのさま。「―な計らい」⇔野暮。
・訴える
こどもがたどたどしく訴える。つぶらな瞳をいっぱいに見ひらいて、
まわらぬ口で訴える。
そんなことは訴えられなくとも、親のこちらは十分承知のことだが、
その可愛い真剣さに、思わず耳を傾ける。慈愛のまなざしに、ほほえみ
をたたえて、大げさなほどのあいづちを打てば、こどもはいよいよ真剣
である。
そんなやりとりのなかから、こどもの訴えのなかに、フト心を打つ言葉
がとび出してくる。
そして、十分承知と思うていたことが、十分承知でなかったことに気が
ついて、〝負うた子に教えられ〟とはこんなことかと苦笑をしつつも、
こどもの言葉が心にしみる。
世の中が何となく乱れてくると、みんなが浮き足立って、人の訴えに
耳を傾けるよりも、ひきつった顔で自我の主張に狂奔するばかりである。
そして心にしみる言葉どころか、お互いに傷つけ合う言葉だけが横行
する。
たどたどしいこどもの訴えにも、懸命に耳を傾けたあの慈愛とほほえみ
はどこへ行ったのか。
● 慈愛
親が子供をいつくしみ、かわいがるような、深い愛情。「―に満ちる」
● 自我
● 狂奔
ある目的のために夢中になって奔走すること。「資金集めに―する」
● 奔走
忙しく走り回ること。物事が順調に運ぶようにあちこちかけまわって
努力すること。「募金集めに―する」
この続きは、次回に。