続「道をひらく」松下幸之助 ㉓
・愚直の人
あまりにも正直すぎて、おろかなほどにまでひたすらで、だから機転
もきかないし融通もきかない。世俗の人から見れば、どうにももてあ
ますような人。
そんな人はいつの時代にもいるもので、これも人間性の一面であるの
かも知れない。
しかし、正直すぎるのはいけないことなのか。ひたすらなのはいけな
いないのか。機転がきかなくて融通がきかないのはいけないことなのか。
よく考えてみれば、どれ一つとして非難すべきことことはない。
むしろ、りくつばかりまくし立てて、いわゆる賢い人ばかりが多く
なったきょうこのごろ、こんな愚直の人は珠玉のような人であるとも
言えよう。
古来、祖師と言われるような人は、ほんとうは愚直の人であったのか
も知れない。だから、世俗には恵まれなかったとしても、そのひたす
らな真実は、今日に至るもなお多くの人の胸を打つのであろう。
愚直もまたよし。この波らんの時にこそ、自分に真実な道を、正直に
ひたすらに、そして素直に歩んでみたい。
● 世俗
世の中の風俗・習慣。世のならわし。「―に染まる」
● 愚直
正直なばかりで臨機応変の行動をとれないこと。また、そのさま。
ばか正直。「―に生きる」
● 珠玉
美しいもの、りっぱなもののたとえ。特に、詩文などのすぐれたも
のを賞していう。「―の短編」
● 祖師
仏教で、一つの宗派を開いた人。禅宗の達磨 (だるま) 、日蓮宗の日蓮、
この続きは、次回に。