続「道をひらく」松下幸之助 ㉔
・池の音
冷えた大地がぬくもって、池の水もぬくもって、そこはかとなくかげ
ろうがたちのぼる。
若葉の香りにつつまれた池の端に立てば、水面はシンと静まりかえり、
遠くの空でひばりの声。
その池に人がきて石を投げこむ。大きな石はドボン。
小さな石はパチャン。その音に耳をすまして人は去る。
ドボンときいて去る人。パチャンときいて去る人。ツツツと水面を
走って、音もなく沈む石に、静かに立ち去る人もいる。音なき音を
きいたのか。
ピチャン、ドボン、バチャン、ポトン、さまざまの石にさまざまの音。
それぞれの音にそれぞれの人が、何がしかの感慨をおぼえつつ、立ち
去ってゆく。
あとはまた、もとの静けさ。大小さまざまの石をのみこんで、大小
さまざまの音をのこして、その音から生まれる感慨は人それぞれに
まかせて、池はまた静かに若葉を映す。
あわただしいこの世の中ではあるけれど、時には池の端にたたずみ、
池の音をきいてみたい。
● そこはかとなく
「そこはかとなく」とは、「なんとなくはっきりしない、どことなく
曖昧な」という意味の形容詞「そこはかとない」の連用形です。
「そこはかとない」を漢字で書くと「其処は彼とない」となります。
「其処にいるのは誰だかわからない」ほど、曖昧ではっきりしない
様子を表しています。2019/10/04
この続きは、次回に。