続「道をひらく」松下幸之助 ㉕
・心をひらく
どんなに賢い人でも、一人の知恵には限りがある。どんなに熱心な人
でも、一人の力には限度がある。
だから、人と人が相寄って働き、組織をつくって仕事をする。知恵を
出し合い、力を寄せ合う。
ところが人がふえ、組織が大きくなると、得てして個々の知恵と力と
がスムーズに出しにくくなる。生かされにくくなる。知恵の集め方が
下手なのか。力のあわせ方がまずいのか。
それもあろうが、まず一人ひとりが、一人の知恵、一人の力に限りの
あることを素直に認め、だからみんなの知恵と力とをぜひとも集めね
ばならぬのだという素直な強い思いにあふれているかどうかである。
その個々の知恵と知恵。力と力とを強く結びつけるもの、それは結局
はお互いの信頼である。信頼があれば心がひらく。心がひらけばさらに
信頼が深まる。衆知の高まりと協力の姿もそこからおのずと生まれて
くる。
心をひらき合おう。人みなの知恵と力とを自由に伸び伸びと発揮できる
信頼の場をつくろう。そこに繁栄への道がある。
・感謝する
舌のまわらぬこどもでも、物をもらえば礼を言う。人の世にそむく人
でも、心にふれる親切には思わず手を合わす。
理屈でも何でもない。感謝するということは、人としてごく自然な姿。
その言葉や形は学ぶにしても、ありがたく思う心の働きは、人それぞれ
にすでに与えられているのである。
感謝とか謝恩とかいうと、何となく窮屈なものと思いがちなきょうこの
ごろ。しかし日々かわす〝ありがとう〟〝おかげさまで〟のひとことが、
どれほど人の心を豊かにし、暮らしにうるおいと喜びをもたらしている
ことか。
窮屈に考える必要はない。感謝の気持ちをあるがままに素直にあらわ
せばよいのである。
大事なことは、野の鳥や獣ではできないが、人間なればこそこれが
できるということである。つまり感謝できるということは、本当は人
としての大きな天与の特権であるとも言えよう。
その特権をお互いにもっと大事にしたい。そして身に受けた喜びを素直
に謝しつつ、みずからもまた喜びを他に与える働きを重ねてゆきたい
ものである。
● 謝恩
受けた恩に対する感謝の気持ちを表すこと。「―セール」
● 天与
この続きは、次回に。