続「道をひらく」松下幸之助 ㉘
● 敵ながら
自分はそれこそ真剣で一生けんめいで、他の誰にも負けないと思って
いるのだが、他の人もまた真剣で一生けんめいで、それぞれの持ち味
に立って黙々と努力をしている。神さまから見たら、ああみんなよく
やっている。あれもよしこれもよし、みんなそれぞれにそのよさを
生かし合えば、ということになるのだが、人と人との間ではなかなか
そうはまいらない。
自分は真剣だが他の人は不マジメだと錯覚したり、負けまいと思うと
らわれから、ことさらに他を無視してみたり、けなしてみたり、まこ
とに心せまい姿になりがちである。そしてよさとよさを生かし合うど
ころか、互いのよさを減殺し合って不信の心を高め、人間同士のせっ
かくの総合的な働きを低めている。
戦いにおいては、敵を知り己れを知るということが一番大事だと言わ
れている。〝敵ながらあっぱれ〟というむかしの武将の言葉は、相手
をも己れをも正しく素直に評価する心のあり方を示しているとも言え
よう。
お互いに〝敵ながらあっぱれ〟と言い得るほど、相手を知り己れを知り、
互いの価値を正しく認識評価しているのだろうか。
● 減殺(げんさい)
減らして少なくすること。また、減ること。
● 敵ながらあっぱれ
「敵ながら天晴れ」とは、敵対関係にある相手の功績や言動に感銘を
受けた際にコレを称賛する際に用いる表現とされている。
この続きは、次回に。