続「道をひらく」松下幸之助 ㉛
● 妙なもので
妙なもので、人間、心が弱くなったときには、不思議なほどに言いわ
けをしたくなってくる。
心が迷うて、あれこれ考えあぐねて、堂々めぐりをしているうちに、
何とはなしにグチが出て、それがグチと気づかないうちに言いわけに
なる。
その言いわけも次第に上手になって、いつのまにやら自分が正しくて、
正しい自分を弁護し、さらにその正しさを懸命に主張するようになって
くる。つまり自分で自分に一番有能な弁護士さんをつけたようなもの
である。
自分を弁護している間は、まだそれでよいけれど、こんどは相手に
向かって一番峻烈な検事さんをさしむけるようになったらもういけ
ない。妙なもので相手もまたそうなって、いつのまにやら人の心と
心が離反する。
人情としてやむを得ないとは言うものの、人情の世界なればこそなお
さらに、自分には検事を、相手には弁護士をの心がけでお互いにわが
身を省みたい。ともすれば離れがちな人の心と心を寄り添わすために。
● 峻烈
非常に厳しく激しいこと。また、そのさま。「―な風土」「―な批判」
● 離反
従っていたものなどが、そむきはなれること。「人心の―した政治」
この続きは、次回に。