お問い合せ

Think clearly シンク・クリアリー ⑤

5. 簡単に頼みごとに応じるのはやめよう—小さな親切に潜む大きな罠

 

□ 人の頼みを断れない「好かれたい病」の正体

 

あなたは、「ちょっとした頼みごと」をされたときに、深く考えずについつい引き受け

てしまうことはないだろうか? どのくらいの頻度で断っているだろうか?

あとになって頼みごとにOKしたことで腹立たしく思うのはどれくらいで、断ったこと

を後悔することはどれくらい? (中略) 私は頼みごとに応えたのに、結果的に私の利益に

つながることもなかった。

 

□ 人の頼みを断れない。この「好かれたい病」はいったいどこから来ているのだろう?

 

(中略)

 

□ 「囚人のジレンマ競技会」で勝利を納めたのは?

 

「ゲーム理論」とは、利害関係を持つ相手がいる集団において、各自の意思決定や行動

が互いに影響し合う状況を、数学的モデルを用いて分析する理論である。

利害関係のある相手のいる状況で、関係者全員にとって最適な選択をするにはどうすれ

ば良いか等の答えが導き出せるため、経済学、政治学、経営学、社会学など、数学以外

の分野でも幅広く応用されている。

このゲーム理論の代表的なモデルに「囚人のジレンマ」というのがある。

共同で犯罪を行なった二人の容疑者を、意思疎通ができないよう別々の部屋に入れ、

個別に次のような司法取引をもちかける。

(a)ひとりが自白し、もうひとりが自白しない場合、自白したほうが釈放、自白しない

ほうは懲役一○年。(b)二人とも自白しなければ懲役二年。(c)二人とも自白した場合は

懲役五年。ゲームは無期限で、容疑者はゲームの回数を知らされないまま、順番にどれ

かを選択しつづける。

二人に共通する最良の選択は、互いに強調して黙秘する(b)だが、どちらかひとりが裏

切って自白し、自分の利益を追求している限り、最良の選択にはいたらないというジレ

ンマがともなうゲームである。

 

相手と協調するもの、相手をあざむくもの、相手のことをまったく気にしないもの、

常に相手と譲歩するものなど、いろいろな戦略がプログラムとして組み込まれた。

その結果、勝利をおさめたのは、「しっぺ返し」と呼ばれる戦略である。

一手目は相手と協調し、それ以降はしっぺ返しの要領で相手の出した手をそのまま

コピーして返すという、とても単純な戦略である。

 

□ 遺伝子が生き残ったのは「しっぺ返し戦略」のおかげ

 

動物の世界で起きていることは、これとまったく同じ行動だ。「互恵的利他主義」と

呼ばれる行動である。

チンパンジーは、次にその仲間がお返しに獲物を分けて与えてくれるのを期待して、

自分の獲物を分け与えているのだ。餌をとりに出かけても、何の収穫もなく住処に

帰らなければならないときの保険である。

「互恵的利他主義」は、その動物の記憶力がよくなければ成り立たない。

チンパンジーは、「以前、どの仲間が肉を分けてくれたかを記憶しておける」からこそ、

この行動パターンをとることができるのだ。

こうした記憶力をもつのは、知能が高度に発達したごく一部の動物だけ。

おもにサルの仲間だ。

もちろんチンパンジーは、戦略を意識して行動しているわけではない。

この行動パターンは、進化の過程で自然淘汰された結果、残ったものだ。

「しっぺ返し戦略」を行わなかった仲間は、遺伝子を残すことができなかったのだ。

 

人類も、知能が高度に発達した動物の一種である。この互恵的利他主義の行動パターンは、

サルたち同様、私たちの中にもやはり受け継がれている。

世界経済が機能するのも、「しっぺ返し戦略」のおかげといえる。私たちは毎日、血の

つながりのない大勢の人たちと(ときには地球の反対側に住んでいる人とも!)協力し合って、

生活を豊かにするという共通目標に向けて活動している。

 

けれども「互恵的利他主義」には、ふたつの危険が潜んでいる。

ひとつ目は、誰かから「好意」を受けると、あなたはその人にお返しをする義務がある

ように感じてしまい、その人の頼みを断れなくなってしまうことだ。つまり結果的に、

あなたはその人の意のままに動かざるをえなくなってしまう。

そしてふたつ目の危険は、さらに重大だ。「しっぺ返し戦略」は、信頼にもとづく協調

からはじまる。相手の利益になる行動をとれば、相手も同じような利益を返してくれる

はずだという信頼をもとに、私たちは自ら進んで相手の頼みを引き受ける。

私たちが後になって腹立たしく思うのは、「つい頼みに応じてしまった」まさに最初の

この瞬間である。

そしていったん頼みごとを引き受けてしまったが最後、自分の行為をなんとか正当化

しようと、相手が並べ立てたもっともらしい理由を自分の頭の中でくり返す。

だがそのとき、頼みごとの実現に必要な時間のことはまるで考えない。

無意識のうちに「時間」よりも「理由」のほうを優先させているのだ。

いくらでも考え出せる理由とは違って、時間には限りがあるというのに。

 

□ これからはどんな依頼も「五秒」で決断する

 

頼みごとをつい引き受けてしまうのは、生き物の本能的な反応なのだ。

そう気づいた私は、対抗措置として、ウォーレン・バフェットのビジネス・パートナー

であるチャーリー・マンガーが実践しているという「五秒決断ルール」をまねることに

している。

「すばらしい何かが見つかる機会なんて、そうそうあるものじゃない」だから、頼みご

との90パーセントを断ったとしても、チャンスを逃したことになんてまずならない」

からだ。マンガーの言葉だ。

だから、頼みごとをされたときには、その無理な要求を検討する時間は、きっちり五秒間。

五秒間で、決断することにしたのだ。

するとほとんどの場合、答えは「ノー」。いくら頼みごとの数が多すぎるとはいえ、

そのほとんどを断っていれば誰からも好かれるというわけにはいかないが、誰からも

好かれたいがために頼みごとを全部引き受けるよりはずっといい。

あなたも絶対にそうした方がいい。頼みごとを断られたからといって、すぐにあなたを

「人でなし」だなどと決めつける人はめったにいない。相手はかえってあなたの毅然と

した姿勢に尊敬の念を抱いてくれるだろう。

古代ローマの哲学者、セネカは二○○○年前にこんなことを書いている。

「あなたに何かを頼もうとする人たちはみんな、あなたから時間や自由な意思を奪おう

としているようなものだ」。

だからあなたも「五秒ルール」を身につけたほうがいい。よりよい人生を手に入れるの

にとても有効だ。


 

この続きは、次回に。

 

 

2024年9月22日

株式会社シニアイノベーション

代表取締役 齊藤 弘美

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