Think clearly シンク・クリアリー ⑬
13. ものごとを全体的にとらえよう—特定の要素だけを過大評価しない
□ マイアミビーチに住んだら「幸福度」はアップする?
(中略)
さて、ここで質問。もしあなたが、太陽がさんさんと降り注ぎ穏やかな海風が吹く、
気温二十六度のマイアミビーチに住んでいたとしたら、あなたの幸福度はどのくらい
アップするだろう?
ここで、0(まったく幸福度は変わらない)から10(はてしなく幸福度がアップする)の
あいだで点数をつけてみてほしい。
私がこの質問をすると、ほとんどの人は4から6のあいだの点数をつける。
(中略)
それではここでもう一度、同じ質問をしてみよう。あなたがもしマイアミビーチに住ん
でいたとしたら、あなたの幸福度はどのくらいアップするだろうか?
この話の後に同じ質問をしてみると、ほとんどの人は、今度は0から2のあいだで点数
をつける。
□ 「フォーカシング・イリュージョン」に惑わされない
私は以前、一○年ほどマイアミビーチに住んでいたが、その前とその後はスイス住まいだ。
スイスでは、雪解けのぬかるみやフロントガラスの凍結と縁の切れない生活である。
だが、マイアミビーチにいたときに、私がいまよりどのくらい幸せだったかというと、
その度数は「ゼロ」だ。これが、「フォーカシング・イリュージョン」である。
ノーベル経済学賞を受賞した心理学者のダニエル・カーネマンは、次のように説明して
いる。フォーカシング・イリュージョンとは「特定のことについて集中して考えている
あいだはそれが人生の重要な要素のように思えても、実際にはあなたが思うほど重要な
ことでもなんでもない」という錯覚を表す言葉だと。
つまり、人生における「特定の要素」だけに意識を集中させると、その要素が人生に
与える影響を大きく見積もりすぎてしまう。
(中略)
だが、その後で、朝の通勤から夜のソファでくつろぐまでの一日の流れを追ってみる
と、「天気はその日全体のほんの一部の要素にすぎない」とわかってくる。
それから、一週間、一か月、一年、一生ともっと長い目で見てみると、天候など、
人生の満足度においてほとんど取るに足らないことになってくる。
特定の要素だけに意識を集中させないほうがいい。フォーカシング・イリュージョン
への対処法も、よい人生のための思考の道具箱に入れておいたほうがいいだろう。
そうすれば、いろいろな場面で決断を誤らずにすむ。
□ 冷蔵庫にビールがなくても私たちは泣き叫ばない
「何かを比較して、選択しなければならない」状況では、私たちは「たったひとつの
要素」だけに注目し、そのほかの要素はなおざりにしがちだ。
フォーカシング・イリュージョンの影響で、そのたったひとつの要素を重視してしまう
のだ。その要素が、決めるときの重要なポイントだと必要以上に思い込んでしまう。
では、そうならないためには、どうすればいいのだろう?
無数にある要素のすべてを一つひとつ比較してもいいが、いくらなんでも効率が悪すぎ
る。実用的な方法は、「比較しようとするふたつのものを、それぞれ大きなまとまりと
して認識する」方法だ。特定の要素だけを過大評価しないよう、十分な距離を置いて
比べてみるのだ。
(中略)
とはいえ、残念ながら私たちは、こうした考え方に関して、まだまだ未熟だ。
目の前の状況を大きく距離を置いて全体的にとらえることはなかなかできない。
もしそれができていたら、些細なことでいら立ったりはしていないはずだ。
□ 「広角レンズ」を通して、自分の人生を眺める
あなたも、こんなふうに考えたことがあるのではないだろうか。もし他の仕事を選んで
いたら、別の場所に住んでいたら、ヘアスタイルが違っていたら—-
「自分の人生はどのくらいよくなっていただろうか」と。
たしかに少しは違っていたかもしれない。でも、何かひとつの要素が変わったとしても、
その結果生まれる違いは、あなたが思っていたよりずっと少ない。あなたもいまでは、
そのことをわかっているはずだ。
自分の人生を、できるだけ距離を置いてとらえてみてほしい。いまはとても重要に思え
るものが、全体図にはほとんど影響を与えないほどの小さな点になっていくのがわかる
だろう。
よい人生を手に入れたければ、ときには「広角レンズ」を通して、その全体を眺めて
みることだ。
□ あなたが億万長者なら、どんな生活を送るだろう?
「フォーカシング・イリュージョン」の影響を特に受けやすいのは、なんといっても
「お金」に関してだろう。
あなたがもし億万長者だったら、どれぐらい幸福度がアップするだろう?
世界でも最も裕福な人のひとりであるウォーレン・バフェットは、自分の生活を平均的
な市民の生活と比較してみせたことがある。
バフェットの暮らしは、一般市民の暮らしとなんら変わりがない。バフェットは、あな
たや私と同じように人生の三分の一を普通のマットレスの上で寝て過ごし、あなたや私の
洋服と変わらない値段の既製服を買っている。
彼の好きな飲み物はコカ・コーラだ。学生が食べているものよりも高級なものや健康的
なものを食べているわけでもない。
普通の机と普通の椅子を使って仕事をしていて、彼のオフィスは一九六二年からずっと
同じ場所にある。ネブラスカ州オマハの、どこにでもあるようなオフィスビルの中だ。
バフェットの生活をこと細かにあなたの生活と比べてみると、彼が裕福であることは
日々の暮らしにほとんど影響を与えていないのがよくわかる。
この続きは、次回に。
2024年10月13日
株式会社シニアイノベーション
代表取締役 齊藤 弘美