Think clearly シンク・クリアリー ⑮
15. 貯蓄をしよう—経済的な自立を維持する
□ 砂漠の中で「一リットルの水」にいくら払うか?
太陽の光がじりじりと背中に照りつけ、砂の上には蜃気楼が揺らめいている。
あなたの口の中は乾きすぎて、紙やすりのようにざらざらだ。
水は二日前に最後の一滴まで飲み干してしまった。それ以来、あなたは地平線に
見えるオアシスに向かって、這うように進んでいる。
「いま誰かがあなたに水を売ってくれると言ったら、一リットルの水にいくら払う
だろうか?」
あなたは水を買い、それを飲んだ。乾きはほんの少しおさまった。
「次にまた一リットル買うとしたら、あなたは今度はいくら払うだろうか?
そして、そのまた次の一リットルには、いくら払うか?」
修行を積んだ苦行僧のように超人的な忍耐力を備えていない限り、あなたは最初の
一リットルには全財産をはたいても惜しくないと思うだろう。
貯金だけでなく、企業年金や別荘まで明け渡そうとするかもしれない。
次の一リットルには、ロレックスの時計ひとつ分くらいの金額だろうか。
さらにその次になると、ヘッドフォンひとつ分くらい。そしてまた次になると、
あなたはもう靴の中敷程度のお金しか出さないかもしれない。
これは、経済学者が、「限界効用逓減の法則」と呼ぶ現象である。消費する水が
増えるごとに水によって得られる満足感は小さくなっていき、一定量を過ぎると
満足感はまったく得られなくなってしまうのだ。
この法則は、水、衣服、テレビのチャンネルなど、ほぼすべてのものに適用できるが、
なかでもこの法則が当てはまるのは「お金」に関してである。
□ 「年収がいくらあれば幸せなのか」を考える
「お金は、果たして人を幸せにするのだろうか?」。
まずは、次の質問に答えてみてほしい。「年収がいくらあれば、追加収入があっても
幸福度が変わらないだろうか?」
(中略)
世帯年収が一○万ユーロ(約一二○○万円)を超えると、追加収入が幸福度に与える
影響はゼロになる(ただしこの境界線は、スイスのチューリヒではもう少し高く、
ドイツのイェーナではもう少し低い)。そしてそれ以降はずっとゼロのまま、年収が
一○○万ユーロに達しても結果は変わらない。
よく考えてみれば、それは以外でもなんでもない。億万長者の1日を朝から晩まで
細かく思い浮かべてみるとよくわかる。
□ 「宝くじの高額当選者たち」は本当に幸せか?
一九七八年に行われた有名な調査がある。何人かの研究者が、「宝くじの高額当選者
たち」の幸福度を調べたのだ。
その結果、「高額当選を果たした数か月後には、当選者たちの幸福度は、すでにそれ
以前とあまり変わらなくなっていた」ことがわかった。
(中略)
つまり戦後すぐ、人々はすでに一九七○年の人たちと同じくらい幸福な生活を送って
いたことになる。物質的な進歩は幸福度に影響をおよぼさなかったのだ。
この現象は「イースターリンのパラドックス」と呼ばれている。基本的な需要を
満たされさえいれば、生活がより豊かになっても幸福度は変わらないのである。
それなのに、なぜ私たちはいつも少しでも収入を増やそうと躍起になるのだろう?
お金があっても幸福度が変化しないことは、すでに研究で明らかだというのに。
その答えは、豊さとは、「絶対的な価値」ではなく、「相対的な価値」だからだ。
□ 「お金がもたらす幸福度」は何によって決まるのか
(中略)
お金の相対的な価値が決まるのは、「他者」との比較によってだけではない。
「あなたの過去」によって変化する。
(中略)
要は、貧困ラインを上回る所得のある人々にとって、「お金がもたらす幸福度の
度合い」は本人の解釈次第でどうにでもなるということだ。
これはよい知らせだろう。お金があなたを幸せにするかどうかは、あなた自身で
決められるのだから。
□ 「お金との上手な付き合い方」四つのルール
お金との付き合い方に関しては、いくつかの基本的なルールがある。
ひとつ目は、ある程度の貯金をしておくこと。
(中略)
ふたつ目のルールは、所得額や資産額のわずかな変動に、いちいち反応しないこと。
(中略)
三つ目は、裕福な人と自分を比較しないこと。
(中略)
そして四つ目は、もしあなたが大金持ちでも生活は質素にすること。
(中略)
結論。あなたの所得が貧困ラインを超えて金銭的な余裕ができたら、よい人生を手に
入れられるかどうかは「お金以外の要素」で決まる。
お金を増やす代わりに、別の要素に意識を向けよう。最終章で取り上げるが、本当の
成功は経済的な成功とはまったく別のところにあるのだ。
この続きは、次回に。
2024年10月17日
株式会社シニアイノベーション
代表取締役 齊藤 弘美