Think clearly シンク・クリアリー ⑲
19. SNSの評価から離れよう—自分の中にある基準を見つける
□ ボブ・ディランとグリグリ・ペレルマンの共通点
「実は誰よりも頭がいいのに、人から誰よりも頭が悪いと思われる」のと、「実は誰よ
りも頭が悪いのに、人から誰よりも頭がいいと思われる」のとでは、あなたはどちらが
いいだろう?
二○一六年にノーベル文学賞を受賞した歌手のボブ・ディランは、受賞が決まった後、
何週間も沈黙したままだった。受賞コメントは出さず、インタビューにも応じず、スウ
ェーデン・アカデミーにすら連絡をとらなかった。
(中略)
授賞式にも姿を現さず、ディランが賞やメダルを受け取ったのは、式の後三か月も経っ
てからだ。世界でもっとも名誉ある賞だというのに、ディランはノーベル賞にはまった
く興味がなかったようにしか見えない。事実、興味がなかったのだろう。
一九六六年生まれのグリゴリ・ペレルマンは、「現在生きているもっとも偉大な数学
者」と評される人物である。
(中略)
ペレルマンにはその功績によって、数学界のノーベル賞といわれるフィールド賞が授与
されることになったが、彼は受賞を辞退した。懸賞金の一○○万ドルですら、ペレルマ
ンは受け取らなかった。サンクトペテルブルクの質素な団地で母親と同居している無職
のペレルマンには、お金は必要だったはずなのだが。
彼にとって重要なのは、「数学」だけなのだ。世の中が彼をどう思おうが、彼の成果を
どう評価しようが、本人にとってはまったくどうでもいいことだった。
□ 「内なるスコアカード」と「外のスコアカード」の違い
(中略)
「世間の評価を気にしても、私の本の出来が変わるわけではない」とわかったのだ。
いちいち反応したところで、私が書いた本の質が上がるわけでも下がるわけでもない。
そう気づいてから、私は自分でつくりあげていた「他人の評価」という監獄から自由に
なることができた。
さて、ここでまた最初の質問に戻ろう。「実は誰よりも頭がいいのに、人から誰よりも
頭が悪いと思われる」のと、「実は誰よりも頭が悪いのに、人から誰よりも頭がいいと
思われる」のとでは、あなたはどちらがいいだろう?
ウォーレン・バフェットは、同じ意図の質問を、こんなふうに表現している。
世界一すばらしい恋人なのに、他人からひどい恋人と思われるほうがいいか、それとも、
実はひどい恋人なのに、他人からは世界一の恋人だと思われるほうがいいか?
この質問でバフェットが伝えようとしているのは、よい人生を手にするためのきわめて
重要な意識のあり方だ。
バフェットはさらに「内なるスコアカード」と「外なるスコアカード」の違い、という
言い方をしている。わかりやすくいえば、「自分の内側にある自分自身の基準が大事か、
それとも周りの人の基準が大事か」ということである。
バフェットはこう説明を加えている。「子どもは非常に早い段階で、親の価値基準を
学びとる。あなたの両親が、あなたが実際に何をするかより、あなたが世間にどう
思われるかを優先させれば、あなたは世間の評価を気にしながら育つことになる」。
しかし、おそらくもうお気づきだと思うが、これではよい人生の芽をはじめから摘み
とっているようなものだ。
□ 他人の評価から自由になったほうがいい理由
残念なことに、他人からよく思われようとするのは、私たちの中に深く根ざした「本能」
なのである。
(中略)
狩猟採集社会に生きていた私たちの祖先にとって重要だったのは、「内なるスコアカー
ド」と「外のスコアカード」のどちらだったろうか?
答えはもちろん、後者だ。私たちの祖先の生死は、周りからどう思われるかにかかって
いたからだ。
(中略)
私たちがこれほどまでに自分が「他人からどう思われているか」を気にするのは、人間
の進化にその理由がある。だからといって、そのことが現代でも大事とは限らない。
むしろその逆だ。
(中略)
だから、他人の評価からは自由になったほうがいい。そうしたほうがいい理由はいくつ
かある。
ひとつ目は、感情のジェットコースターに乗っている時間を節約できるから。どんなに
がんばっても他人からの評判は操作できるものではない。
「年をとれば、ジャンニ・アニェッリの言葉だが、つまり、こういうことだ。「周りに
はそのつど好きなように言わせておけばいい。あなたが年を重ねて評判を固めれば、
もう好き勝手なことは言えなくなるのだから」。
そしてふたつ目の理由は、面目や評判を気にしすぎると、自分が本当は何に幸せを感じ
るのかが分からなくなってしまうことにある。
三つ目は、ストレスを感じていては良い人生にはならないからだ。
□ 気をつけないと「承認欲求の塊」になってしまう
いまのような時代には特に、「自分の中の基準」をしっかりと持っておいたほうがいい。
ジャーナリストのデイヴィッド・ブルックスはこう述べている。
「ソーシャルメディアを使うと、みんな自分のイメージを演出するちょっとしたプラン
ドマネージャーのようになってしまう。誰もがフェィスブックや、ツイッターや、ショ
ートメッセージサービスや、インスタグラムを使って、元気で楽しげな外向けの自分を
つくり上げている」
ブルックスは、気をつけないと、私たちはいずれ「アプルーバル・シーキング・マシン
(他者からの承認を求める機械)」になってしまうと警告を発している。
フェィスブックの「いいね!」や、★の数や、フォローワーの数など、ソーシャルメディ
アの世界には、自分のランクを即座に数値化できるシステムが網の目のように張りめぐ
らされている(どれも実体のない名ばかりのランクなのだが)。
いったんこの網に捕らえられてしまうと、自分の意志で自由に動いてよい人生を送るの
は難しくなってしまう。
結論。世間の人々は、あなたについて好き勝手なことを書き、ツイートし、投稿する。
あなたに隠れてひそひそ話をしたり、うわさ話をしたりする。あなたを極端に褒めあげ
たり、ひどい厄介ごとに巻きこんだりもする。
どれも、あなたにはまったくコントロールできないことばかり。だが幸いなことに、
コントロールする必要もないのだ。
あなたが政治家や有名人であったり、自分のイメージを使って仕事をしていたりするの
でもなければ、自分の評判なんてそれほど気にすることはない。
「いいね!」を押したり押されたり合戦はもうやめよう。自分をグーグルで検索したり、
誰かの承認を求めたりするのもやめよう。それよりも、自分で何かを成し遂げたり、
胸を張れるような生き方をしたりすることに、注力したほうがいい。
ウォーレン・バフェットはこんなことを言っている。「私のしたことが周りの人間に
とって気に入らないものであっても、私自身がそれを気に入っていればそれで満足だ。
だが周りが褒めてくれたとしても、私自身が自分の仕事に納得できなければ、アマンを
感じる」。
まさに「内なるスコアカード」そのものではないか。あなたも、周りからの褒め言葉や
非難は穏やかに受け流すようにしよう。一番大事なのは、あなた自身がどう判断するか
なのだから。
この続きは、次回に。
2024年11月6日
株式会社シニアイノベーション
代表取締役 齊藤 弘美