Think clearly シンク・クリアリー ㉑
21.目標を立てよう—人生には「大きな意義」と「小さな意義」がある
□ 自分のことを簡潔に説明するのはむずかしい
(中略)
人生には、あなたの本質と人生を正確に描き出そうと思えば、ブルーストバリの深みの
ある小説一冊分くらいは必要なのだ。
人生には、数えきれないほどいろいろな要素がつまっている。だから自分のことを一行
詩のようにまとめてみても、自分を正確に表せているとはとうてい言えない。
それなのに、私たちはいつも自分のことを簡潔な言葉でまとめようとする。
(中略)
それどころか私たちは、自分がどんな人間でどんなことをしてきたかという、自分の
人生すら頭の中で創作してしまう。
このことに関しては第24章で詳しく取り上げるが、前もってひとつ忠告しておこう。
「自分は誰か」という問いに、きちんとした答えを出そうとあまり深刻に悩みすぎない
ほうがいい。そう簡単に答えの出る問題ではない。考えてみても時間の無駄なのだ。
□ 目標そのものがなければ、達成することはできない
それでは、「あなたは何がしたいのですか?」というふたつ目の質問はどうだろう?
ひとつ目とは違い、この質問にならば答えが出せる。というよりむしろ、この質問に
答えることは意味がある。
なぜならこれは、人生の目標を問う質問だからだ。「人生の意義」といいかえていい。
だが、「意義」とは意味の広い曖昧な言葉だ。「人生の意義」の答えを見つけようと
するときは、まず、「人生の大きな意義」と「人生の小さな意義」を区別して考えよう。
「人生の大きな意義」を見つけるには、「私たちはなぜこの世に生まれてきたのか?」
「私たちはなぜ存在するのか?」「そもそも、この世とは何か?」という問いの答えを
探さなくてはならない。
(中略)
だから、最初の質問と同じように「人生の大きな意義」の答えを探すのはやめたほうが
いい。時間を無駄にするだけだ。
だがそれに対して、「人生の小さな意義」の答えを見つけるのは大事だ。
「人生の小さな意義」とは、あなたの個人的な目標や、あなたが意欲的に慣れること
や、あなたがすべきことを意味する。
(中略)
古代ローマの哲学者、セネカはすでに二○○○年前にこう言っている。「すべての行動
は、ひとつの目標に向けられていなければならない」そのためには、常にその目標を
しっかり見据えておくことだ」。
目標を必ず達成できるとは限らないが、はじめから目標そのものがなければ何も達成
できない。「人生の目標」の意味はきわめて大きい。
□ 幸福度は「目標を達成できたかどうか」で決まる
(中略)
その結果、確認できた事実がふたつあった。
ひとつ目は、若い頃に経済的な成功を重視していた人のほうが、数十年後の所得額が
多いこと。つまり、目標の有効性が裏づけられたのだ! 心理学者だけはこの結果に驚い
た。彼らは、人間はパプロフの犬みたいに外からの刺激にしか反応しないと思い込んで
いたからだ。
ふたつ目の事実は、社会に出たら高収入を稼ごうと若い頃に目標を立て、のちにその
目標を達成した人は、人生に対する満足感も非常に高かったことだ。
(中略)
だが、彼らの「幸福度の高さ」は「所得の高さ」によるものではないのだ。というのも、
経済的な成功を人生の目標にしていなかった人たちの場合には、所得の高さは人生の
幸福度にはほとんど影響を与えていなかった。
つまり、人が幸せを感じるかどうかは所得の額によって決まるのではなく、目標を達成
できたかどうかで決まるのである。人生の目標がお金以外の場合でも、同じような傾向
が確認されている。
どうして、「目標」がこれほど大きな意味を持つのだろう?
答えは明確だ。なぜなら、目標を持っている人は、持っていない人より、目標達成のた
めに努力しようとするからだ。それに、目標があれば、正しい決断を下しやすくなる。
人生には、無数の分かれ道がある。分岐点に差しかかるたびに、そのときの気分でどち
らに進むか決めてもいいだろうが、目標があれば、それに適した道を選ぶことができる。
調査研究の対象となった学生のうち、経済的な成功が「不可欠」と答えた学生がその
後、収入のよい仕事(医者、弁護士、コンサルタントなど)に就いたのは偶然ではない。
□ 「非現実的な目標」を立てても幸せにはなれない
だから、人生の目標は持ったほうがいい。ただ目標を立てるときに気をつけなければな
らないこともある。
ノーベル賞受賞者のダニエル・カーネマンが指摘しているように、「達成困難な目標を
立てている人は人生に不満を感じるもの」だからだ。
あなたも目標を立てるときには、「それがどのくらい実現可能なものか」をよく考えて
ほしい。
(中略)
それから、目標はわざと少し曖昧にしておいたほうがいい(たとえば「億万長者にな
る」ではなく「裕福になる」というように)。
目標を達成できればそれに越したことはないが、たとえ達成できなくても、目標が曖昧
なら、(少なくとも部分的には)目標に達したと思うこともできるからだ。あなたが意識
してそう思い込もうとしなくても、おそらくあなたの脳は自然にそう解釈してくれるだろう。
結論。目標は役に立つ。目標は大事だ。
だが、ほとんどの人は「人生の小さな意義」に就いてあまり真剣に考えようとしない。
まったく目標を持たないか、せいぜい、そのときトレンドになっている何かを目標とし
て拝借する程度だ。
一方で、目標をもっていたとしても、そのハードルを高く設定しすぎている人にとって
は、ハードルを下げて実現可能な目標を立てなおすのも、よい人生に近づく方法のひと
つだ。
大事なのは、少しでも早くどこかにたどり着くことではない。自分がどこに向かってい
るかをきちんと把握しておくことだ。
この続きは、次回に。
2024年11月10日
株式会社シニアイノベーション
代表取締役 齊藤 弘美