「アメリカはなぜ日本より豊かなのか?」⑨
第7章では、トランプ前大統領復活の可能性について考える。アメリカへの不法移民の
急増は、社会的な混乱をもたらし、大統領選の最大の争点になっている。
しかし同時に、労働力の供給を増やし、インフレを緩和させる効果を持つことも注目
されている。トランプ氏が再選されれば、アメリカは、その強さの源泉である「寛容
性」を捨て去ることになる。
第7章 トランプはアメリカの強さを捨て去ろうとする
1. 移民が大統領選の最大争点
□ 不法移民増加がアメリカで大問題
□ 不法移民でニューヨーク市は大混乱
□ 不法移民で溢れる「聖域都市」(サンクチュアリ・シティ)
□ トランプの答えは明快
□ バイデンは右顧左眄?
□ バイデン政権はあまりに性急に国境を開いてしまった?
□ 移民が増えれば、インフレは収まる?
□ FRB利下げと移民の深い関係
□ 移民の増加は労働力を増やし、アメリカ経済に望ましい影響を与える
□ 日本も、移民が人手不足を解消することを認識すべきだ
3. 「もしトラ」に備える
□ 「もしトラ」に備える必要がある
□ 対外コミットメントの後退
□ 対中強硬策をさらに強める?
□ 中国に大きな変化があった
□ 日米経済問題はどうなるか
□ 防衛費負担問題にどう対処するか
□ 日本は取引材料を持っているか?
4. 第1次トランプ政権の経済政策を振り返る
□ 米中関税引き上げ合戦
□ 米中貿易合意と新型コロナの感染拡大
□ バイデン政権も対中強硬策を継続
5. 大統領への過度の権力集中
□ ディープステートを解体するという強権策
□ 大統領が関税率を変更できる
6. ローマは非寛容になって衰退した。アメリカは ?
□ アメリカの強さを支える基礎条件を捨て去る
7. ハリス氏は、第二次トランプ政権を阻止できるか?
□ バイデン政権撤退、ハリス氏が登場
□ 経済政策はどうなる?
□ 不法移民流入問題が、民主党の最大の弱点
□ ハリス副大統領は、不法移民対策で成果を挙げられなかった
□ 選挙というプロセスのバイアスを、ハリス氏が克服できるか?
♦︎ 第7章 まとめ
1. 不法移民の急増によってニューヨーク市などの治安が急速に悪化し、深刻な問題と
なっている。これは、アメリカ大統領選挙での最大の争点になった。壁の再建という
トランブ氏の政策は分かりやすく、指示が広がっている。バイデン大統領は苦戦。
2. アメリカへの移民の急増は、社会的な混乱をもたらしているが、同時に、労働力の
供給を増やし、インフレを緩和させる効果を持っている。
これは、FRBの利下げタイミングに大きな影響を与える。
3. アメリカ大統領選挙で、もし第二次トランプ政権が成立すれば、第一次政権のとき
と同様、アメリカの対外コミットメントの縮小、在日米軍の費用負担増加などを求め
てくる可能性がある。また、対中強硬策を強化する可能性もある。
4. 第一次トランブ政権は、関税率引き上げなどによって中国に対する貿易戦争を始めた。
トランプ政権の対中強硬策の大部分は、バイデン政権によって引き継がれた。
5. トランプ前大統領は再選されれば、アメリカ国内では、「影の政府」を撲滅して
反対意見の排除に乗り出すとしている。
6. アメリカの強さの根源は、異質なものに対する寛容なのだが、アメリカは自らそれを
放棄しようとしている。
7. 女性で非白人という、トランブ氏と対極にあるハリス氏の登場で、アメリカ大統領選
の状況は大きく変わった。ただし、副大統領としてのハリス氏の業績に対する評価は、
あまり高くない。とくに問題なのは、今回の大統領選の最大争点である不法移民問題
に対して、適切な対応ができなかったことだ。ただし、それをハリス氏が選挙戦で
挽回できる可能性は残されている。
本書は、「現代ビジネス」「東洋経済オンライン」「ビジネス+IT」「ダイヤモンド
オンライン」「時事通信 金融財政ビジネス」に公表した記事をもととしている。
これらの掲載にあたってお世話になった方々に御礼申し上げる。
本書の刊行にあたっては、幻冬舎編集部の四本泰子氏にお世話になった。
御礼申し上げたい。
2024年5月
野口 悠紀雄
この続きは、次回に。
2025年4月28日
株式会社シニアイノベーション
代表取締役 齊藤 弘美