書籍「Effectuation エフェクチュエーション」 ⑨
✔︎ 余剰資金によって生み出されたイノベーション
起業家自身が個人的に活用できる「私は誰か」・「何を知っているのか」・「誰を知っ
ているか」という手持ちの手段(資源)に加えて、組織や社会のなかに存在する「余剰資
源(Slack)」を活用することも有効です。手持ちの手段(資源)と余剰資源の共通点は、
それを起業家がすぐに利用できることであり、十分に活かされていない既存の資源を
使って、「何か新しい行動が生み出せないか?」「別の新しいものを作れないか?」を
考えるための原料にできることです。
余剰資源は、多くの人々が現状では不必要とみなしているがゆえに、活用されていない
資源ですので、そうした余剰資源が本当に意味のある成果につながるのか、疑問に思わ
れる方もいるのでしょう。しかし、過去の産業史を振り返ってみると、まさに余剰資源
を活用しながら大きな経済的な成果を実現した起業家の事例を、いくつも見出すことが
できます。
・余剰資源は、普段あまり意識されないがゆえに、すぐに気づいて活用することが難し
いと感じられるかもしれません。しかし事例として挙げた以外にも、稼働していない
時間帯の設備や、廃棄されている材料などを含め、普段から意識的に探してみると
身の回りにあるさまざまな余剰資源の存在に気づくことでしょう。多くの余剰資源
は、非常に安価(時にはまったくお金を必要とせずに)活用することが可能ですので、
仮に行動が失敗に終わった場合でも損失はより小さなものになります。逆に行動が
成功した場合には、最初の投入費用が小さい分、利益は大きなものとなるでしょう。
✔︎ 手持ちの手段(資源)をアイデアに変換する
・本章では、手持ちの手段(資源)や余剰資源を活用して、「何ができるか」の具体的な
行動のアイデアを生み出して着手する、「手中の鳥の原則」を確認してきました。
最後に、手持ちの手段(資源)からアイデアを発送するときに重要な点として、その
アイデアが優れたものであるかを、その時点で確信できている必要は必ずしもない
ことを確認しておきたいと思います。
・さらに、最初の時点では起業家自身がそこまで大きな事業性を見出していたわけでは
なかったアイデアだとしても、それに関する何らかの行動を起こして他者と関わって
いく過程で、新たなパートナーを獲得してその実効性が高まっていく可能性があるこ
とは、ゲーム&ウォッチの事例でも確認されました。ときには、予期せぬフィードバ
ックを得た結果として、「何ができるのか」のアイデアが思わぬ方向性へとピボット
される可能性もあるでしょう。このようにアイデアは繰り返しアップデートされる
可能性に開かれてもいることが、エフェクチュエーションのプロセスの大きな特徴に
なります。
同じように、着手する時点で、自分があまり価値のある「手中の鳥」を持っていない
のではないか、と悩む必要もありません。なぜならば、「何を知っているか」や「誰
を知っているか」といった手持ちの手段もまた、行動を起こすたびに拡張されていき
ますし、また「私は誰か」についても、行動とその結果からのフィードバックを通じ
て、次第に明確化していくことが期待とれるためです。
ただし、手持ちの手段(資源)や、そこから生み出される「何ができるか」のアイデア
を考えるうえで最も重要なのは、それがあなた自身にとって「意味があるか」という
視点です。エフェクチュエーションが前提とする、不確実性の高い環境では、行動の
結果として期待した通りの結果が得られるとは限られませんが、そうしたなかでも
実際に行動を起こすことが求められます。だから、結果が保証されていなくとも、
あなた自身がそれに取り組むことに意味を見出せるのか、行動をすること自体にワク
ワクすることができるのか、という基準で、アイデアの良し悪しを考える必要がある
のです。
この続きは、次回に。
2025年10月7日
株式会社シニアイノベーション
代表取締役 齊藤 弘美