書籍「Effectuation エフェクチュエーション」 ⑲
✔︎ 危機的な環境変化も手持ちの手段を拡張する機会と捉える
現実に、2020年以降のコロナ感染症の拡大とその長期化は、さまざまな産業や事業に
とって大きなマイナスの影響をもたらしたが、 そうしたなかでも、こうした予期せぬ
事態を積極的に活用することで、いち早く業績を回復させた企業がありました。
2020年5月14日に放映されたNHKのテレビ番組「クローズアップ現代」では、それま
で右肩上がりの成長を続けていたインバウンド(外国人観光客)需要が消失し大打撃を
受けている観光業界の現状が特集されました。そのなかで、星野リゾートの社長である
星野佳路さんは、インタビューに次のように回答されていました。
「過去の困難なときに発想してきたことが、今の私たちの力に実はなっているんですよね。
今回も大変な、過去になかったような大きな事件だと思っていますが、この環境下に
おいても、私たちは常に発想し続けて、常に次の収束したときにより強い施設になって
いよう、より強い私たちの組織にしていくためにはどうしたらいいか。そういう発想を
していくことがすごく大事だと思います」
危機的な状況に直面した場合でさえ、それを単なる不幸な出来事と捉えるのか、自分た
ちの能力を高める学習機会と捉えるのかによって、その後の行動もその成果も、まった
く異なるものになるだろうことは想像に難くありません。星野さんの発言は、まさに
環境によってもたらされたレモンをレモネードの原料としようとする姿勢を体現したも
のだといえるでしょう。実際に、その後、星野リゾートはマイクロツーリズムのような
新しい旅行需要の掘り起こしや新業態のホテルのオープンを含め、さまざまな新しい
手を打ち出し、困難な環境のなかでも一早く業績を回復させました。
✔︎ レモネードの原則は「許容可能な損失の原則」を補完する
変化の厳しい環境での実践や、新規性の高い取り組みにおいては、いくらリスクを分析
するさまざまな手法を駆使して精緻な予測に注力しても、予期せぬ失敗や不都合な結果
は起こりえます。前章で確認した「許容可能な損失の原則」は、こうした問題に対して、
事前に最悪の事態で起きうる損失を想定して、ダウンサイドのリスクを許容できる範囲
に留めようとする思考様式でした。
本章の「レモネードの原則」は、それでも想定しきれない不確実性を含む予期せぬ結果を、
むしろ自らの手中の鳥を拡張する機会と捉え、より美味しいレモネードの材料にするた
めにテコとして活用することで、こうした「許容可能な損失の原則」を補完する形で
機能します。
私たちは、理想的な手持ちの手段から始めることも、未来を完全に見通すこともできな
いかもしれませんが、偶然に与えられたものを活用することで、意味のある新しい行動
を創り出すことはできるのです。
この続きは、次回に。
205年11月19日
株式会社シニアイノベーション
代表取締役 齊藤 弘美

