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書籍「Effectuation エフェクチュエーション」 ㊳

︎ 5つの原則を統合してエフェクチュエーションのサイクルを回す

 

起業家は、自らのアイデンティティや知識、社会的つながりに基づいて着手する「手中

の鳥の原則」と、起業家自身の可能なリスクテイクを反映した「許容可能な損失の原

則」に基づくことで、未来の結果が予測できないような不確実性の下でも、起業家自身

にとって意味ある一歩を合理的に踏み出すことが可能になります。ただし、それだけで

は実行可能性とリスクへの対処を重視した、小さな行動にしかならない恐れがあるで

しょう。

そうした行動が、新たな市場や事業機会を含む、より大きな価値の創造につながりうる

のは、行動を起こして初めて得られる、外部環境からのフィードバック(予期せぬ結果や、

人や情報との出会い、制度的障壁など)を起業家が取り込み、より実効性の高い行動へ

と繰り返しアップデートするためです。こうした対応を可能にする思考様式が、「クレ

イジーキルトの原則」と「レモネードの原則」であると理解できます。アイスホテルの

事例でも、ベリークヴィスト自身が想像もしなかった幾多の経験やパートナーの参画を

通じて、「何ができるか」が繰り返し刷新され、新たな可能性が創造されました。

最後に「飛行機のパイロットの原則」は、こうした外部環境との相互作用との相互作用

を含むプロセスの全体を、起業家自らがコントロールしようとする主体性に関連すると

いえます。予期せぬ事態をポジティブに活かすことや、自発的なパートナーとともに

新たな取り組みに着手することは、自動的に起こるわけではなく、常に起業家自身の

主体的なコントロールの結果です。つまり、偶発性にどのように対処するのか、誰が

パートナーとなり誰がそうならないか、といった意思決定は、パイロットである起業家

自身によってなされるのであり、そうした意思決定には「私は誰か」というアイデンテ

ィティが強く反映されると考えられます。

エフェクチュエーションのプロセスにおいて、行動の起点となる手持ちの手段(資源)の

筆頭に「私は誰か」というアイデンティティに関わる要素が挙げられるのは、結果が

予測不可能であるゆえに最適な行動が定義できない不確実な意思決定においても、アイ

デンティティこそが「何をすべきか」を判断する一貫した指針を提供しうるためです。

そしてアイデンティティは、最初は起業家自身の「私は誰か」と同一であるものの、

エフェクチュエーションのサイクルが繰り返してパートナーが獲得される結果、徐々に

「私たちは誰か」という組織的なアイデンティティが形成されると想定されています。

ベリークヴィストの実践を見ても、ラフティング事業から始まり、氷のアートフェス

ティバル、アイスホテル、アイスバー、解けないアイスホテルの開業へ、という一見無

秩序にも見える事業展開の根底には、ユッカスヤルヴィの自然環境の魅力を人々に伝え

たいという思いや、「足元を掘れ」という価値観が一貫して影響を与えていることがわ

かります。逆にいえば、起業家やそのチームのアイデンティティにそぐわないために、

対応が見送られた予期せぬ事態やパートナー関係も、当然ありうると考えられます。

このように、エフェクチュエーションを構成する5つの思考様式は、それぞれが単独で

活用されるわけではなく、お互いに影響し合う関係にあります。ただし、多くの人が

最初から全ての思考様式は、それぞれが単独で活用されるわけではなく、お互いに影響

し合う関係にあります。ただし、多くの人が最初から全ての思考様式をうまく使える

わけではなく、行動の指針となる「私は誰か」という自分自身のアイデンティティですら、

曖昧にしか理解できていない場合もあるでしょう。それでも、ベリーヴィストが想定外

の事態に直面して「人間の思うようにならない自然の面白さ」に対する自分の選考を

自覚したように、実際に行動を起こした結果からのフィードバックによって、自分自身

への理解が深まることも多くあります。

これから5つの思考様式の補完関係を意識しながら、エフェクチュエーションのサイク

ルを回し続けることによって、起業家であるあなた自身の内部環境(起業家自身の認知

や感情、願望など)と、外部環境(市場構造や制度、さまざまなステークホルダーなど)

の状態を反映した、新たな価値を形にする実践が可能となると考えています


 

この続きは、次回に。

 

 

2026年2月7日

株式会社シニアイノベーション

代表取締役 齊藤 弘美

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