企業とは何か-⑪
社会における個の位置づけ
・正義を重んじすぎて忘れ去られたもの
□ 機会の平等という名の正義、社会における位置を役割という名の尊厳を
統合して実現することこそ、産業社会の代表的組織としての企業の最大
の課題である。
自己実現を阻む組み立てラインの単調さ
□ なぜ産業社会では、社会における位置と役割、自己実現と充足が失われるのか。
一つの答えは、大量生産向上での仕事が、いかなる満足も得られないほどに
単調であることにある。仕事は、創造力の発揮どころか賃金のための労働に
なっている。
・単調さへの観念的な批判論
・ホーソンでの実験が示すもの
□ 働く者の満足を左右するものは、仕事の内容ではなく仕事の重要度への認識だ
ということだった。仕事の定型度や単調さではなく、仕事の認知度、意味、
意義の欠落が問題であった。
・仕事を意義づける
□ 大量生産産業では、仕事に働きがいを見出すうえで必要な、仕事の意義づけが
行われていない。そこに働く者は、いかなる意味ある製品もつくっていない。
何をなぜ行っているかを知らない。仕事は賃金以外にいかなる意味もない。
市民性がないゆえに、市民としての充足もない。昔からいうように、仕事に
意味をもたず食べるためにのみ生きる者は、市民ではないし市民たりうるはず
もない。
市民性回復のための二つの試み
□ 産業社会における一人ひとりの人間の位置と役割に関する問題の解決は、
社会保険や福利厚生という恩恵によってはもたらされない。
必要なことは、人間としての尊厳を与えることである。
・労働組合は機能するか
第8章 産業社会の中流階級
中流階級という概念
職長にとっての機会の平等
・検討中の方策
職長の地位は確立できるか
・労務管理形態の変化
・職長労組の結成は中流意識を奪うか
・問題の解決への糸口
□ このように事業部間に不統一はあるものの、GMの経験は二つのことを教える。
第一に、職長は中流階級としての位置を保持したがっており、そのための
経営陣の試みのすべてを全面的に支持しているということである。
このことは、GMでは職長労組の動きが活発でないことにも表れている。
第二に、職長がどれだけ中流階級としての位置を保持できるかは、どこまで
分権制が行われるかにかかっているということである。
第9章 働く者の位置と役割
労使問題の解決の糸口
□ 分権制は、マネジメントの機能が存在する範囲においてのみ意味をもつ。
つまりそれは、平の行員を産業社会に組み込むうえでは役に立たない。
彼らは指示はされても、指示はできない。
・位置と役割の喪失
いかに機会の平等を与えるか
戦時生産の教訓
・大量生産の柔軟性の発見
□ 第一の教訓は、近代大量生産のコンセプトの柔軟性の発見だった。
・仕事の意味を知る
□ 第二の教訓は、人は金のために働くのであり、仕事や製品のために働くので
はないとの考えの間違いだった。
□ きわめて多くの経営幹部が戦時生産のおかげで、人は仕事に誇りをもつとき
成長することを知った。同時に戦前においては、人が仕事の意味づけを必要
とすることを知らず、そのための方策を見出す努力をしていなかったことを
覚った。
・提案制の成果
□ 第三の教訓は、戦前にはいかに多くの創造力を無にしていたかへの反省
だった。11万5000件の提案のうち、何らかの形で採用されたものは4分の1、
約2万8000件だった。提案の4分の3が不採用だったということは、多くの
者が自分の仕事を理解していないということであり、いうなれば、経営側が
家具州の機会を与えていないということだった。一方で、提案数の多さは、
彼ら平の工員たちが学ぶことを欲し、何らかの役割を果たすことを望んで
いることを示していた。
働く者の参画を促す
□ これら戦時生産の経験から得られる結論は、三つである。
第一に、必要とされているものは労使ともに問題解決への積極性と
姿勢だということである。
第二に、まず働きかけを行うべきものが、生産工程、製品、職場コミュニ
ティという三つの純粋に技術的な領域だということである。
第三に、われわれはまだ問題そのものを扱えるほどには多くを知らず、
できることは症状に対する措置だけだということである。
単なる働きかけにすぎないとはいえ、なしうることはいくつかある。
そのうち最も早く効果をあげるであろう第一の分野が不良生産の
新展開である。
・働く者を参画させる
大量生産の新展開に次いで働きかけを行うべき第二の分野が、働く者と
製品との関係の見直しである。戦時生産に特有の愛国的な熱気とドラマ性に
裏打ちされた製品への愛情に似たものを平時生産においても生み出さなけれ
ばならない。
・事業への理解を促す
第三の分野が事業全体への理解の促進である。
働く者の側が、マネジメントとは何か、その役割、問題、原理、倫理が
何であるかを知る最善の方法が、責任をもって主体的に行動する機会を
もつことである。これを促進することこそ産業社会への最高の寄与である。
・職場コミュニティの仕事
賃金の決定要因
□ 賃金については、客観的な基準は一つしかない。
生産性である。賃金は生産したものから支払われる。
それは製品コストの一部であって、価格の一部である。
したがって、生産性の向上によらない賃上げは欺瞞であって、
やがて働く者自身に害をなす。
・賃金の定義の違い
市民性を回復させる
・企業を強化するもの
□ 産業社会における機会の平等と市民性の実現こそ企業にとっての利益だと
いうことである。
・社会的組織としての企業
□ 企業が社会の代表的組織であること、人間からなる組織であること、
秩序あるものとしての社会に関わるものであること、われわれの全員が
消費者、労働者、貯蓄者、市民としてその繁栄に利害を有することこそ、
われわれが学ぶべきもっとも重要な教訓である。
□ この企業という新しい社会的組織を効率よく機能させ、その経済的、社会的な
可能性を十分に発揮させ、その直面する経済的、社会的な問題の数々を解決す
ることこそ、われわれにとって最も緊急を要する課題であり、かつ最も挑戦の
価値のある機会である。
この続きは、次回に。