[新訳]イノベーションと起業家精神(下) —-その原理と方法⑱
3 専門市場戦略
専門市場戦略は、前述の専門技術戦略が製品やサービスについての専門知識を中心として構築されるのに対し、市場についての専門知識を中心に構築される。他の点については、両者はほとんど同じである。
○ 変化による機会
専門市場戦略のための市場は、「この変化には、ニッチ市場をもたらすいかなる機会があるか。他に先がけて、それを手に入れるには何をなすべきか」と問うことによって手にすることができる。
○ 最大の敵は自らの成功
専門市場の地位には、専門技術の地位と同じように限界がある。専門技術の地位にある者にとって、最大の敵は、自らの成功である。専門市場が大衆市場になることである。
[第19章]価値の創造
本章で論じる起業家戦略は、それ自体がイノベーションである。
本章で論じる起業家戦略は、一つの共通項がある。いずれも顧客を創造する。
この顧客の創造こそ、つねに事業が目的とするものである。さらには、あらゆる経済活動が空極の目的とするものである。そのための方法は、
(1) 効用戦略
(2) 価値戦略
(3) 顧客戦略
(4) 価値戦略 の四つである。
1 効用戦略
○ 真の効用の追求
効用戦略には、価格はほとんど関係ない。
この戦略は、顧客が目的を達成するうえで必要なサービスを提供する。この戦略は、顧客にとって真のサービスは何か、真の効用は何かを追及する。
この戦略によって、顧客は自分の欲求やニーズを滋養に満足させることができる。
2 価格戦略
支払いの方法を、消費者のニーズと事情に合わせることが必要である。
消費者が実際に買うものに合わなければならない。供給者にとってのコストではなく、顧客にとっての価値に対して価格を決定しなければならない。
3 顧客戦略
顧客の事情に対応するという同じ考え方が分割払いなるものを生み出した。
イノベーションのための戦略は、それらの事実が、顧客にかかりをもつかぎり、不可避の事実として認めるところから始める。
顧客が買うものは、それが何であれ、彼らの事情に合ったものである。
事情にあったものでなければ、何の役にもたたない。
4 価値戦略
起業家戦略としての価値戦略は、メーカーにとっての製品ではなく、顧客にとっての価値を提供する。この戦略は、顧客の事情を、顧客が買ってくれるものの一部として受け入れるという前述の戦略の延長戦上にある。
○ 愚かさの違い
理論経済学の父デヴィット・リカードは、
「利益は、賢さの違いからではなく、愚かさの違いから生まれる」と言った。まさに起業家は、自らが賢いからではなく、ほかの者が何も考えないから成果をあげる。顧客にとっての効用、顧客にとっての価格、顧客の事情、顧客にとっての価値からスタートすることが、マーケティングのすべてである。
起業家戦略の基礎としてマーケティングを行う者が、産業や市場におけるリーダーシップを、直ちに、しかもほとんどリスクなしに手に入れるという事情は残る。
○ 判断としての起業家戦略
起業家戦略は、イノベーションや起業家としてのマネジメントと同じように重要である。これら三つのものが一体となって、イノベーションと起業家精神が生まれる。
イノベーションとは、市場や社会における変化である。それは、顧客に対しより大きな利益をもたらし、社会に対しより大きな富の増殖能力、より大きな価値、より大きな満足を生み出す。イノベーションの値打ちは、顧客のために何を行うかによって決まる。同じく起業家精神も、つねに市場志向、市場中心である。しかし、起業家戦略は意思決定の分野に属し、したがってリスクを伴う。それは直感や賭けではない。とはいえ、厳密な意味での科学でもない。それは判断である。
この続きは、次回に。