お問い合せ

チェンジ・リーダーの条件⑫

○   利害当事者のためのマネジメント

今日、私の知るかぎり、利害当事者の利益をバランスさせるべく企業をマネジメントしていると言っているトップマネジメントは、一つもない。

年金基金の管理者、特に自らも公務員である公務員年金基金の基金管理者は、グリーンメール(プレミアム付き株式買取り)や、乗っ取り屋の稼ぐ巨万の富に対し、道義的にも心情的にも疑問を抱いていた。しかし彼らに選択の余地はなく、乗っ取り屋に株式を提供せざるをえなかった。あらゆる年金基金が同じように行動した。

彼らは、年金基金は株式を売却することができるという考え、つまり投資家であるという幻想をもっていた。

乗っ取りは、売却益を提供してくれる。

年金基金の運用は、概して成績がよくない。売却益はありがたい。

しかしそのような売却益も、結局は幻想であり、現実ではないことが明らかになった。

乗っ取りを避けられなくしたもの、あるいは、乗っ取りの機会を生じさせたものは、啓蒙専制君主たるマネジメント、すなわち仕事

と成果について明確な定義をもたず、誰に対しても明確な責任をもたないマネジメントの凡庸な仕事ぶりだった。

いかに理由をつけて弁明しても、アメリカの大企業のマネジメントが、競争力、市場における地位、イノベーションの成果について、プロとしての責任において合格点をとれる仕事を行ってこなかったことは事実である。

財務上の成果を見ても、資本コストという最低限の利益すら稼いでいなかった。

それでも乗っ取りは、少なくとも株主にとってはよいことだろうか。

ほとんどの場合そうではなかった。代表的な取引を見ると、株主は、株価が40ドルであれば、60ドルを受け取る。だが、この5割の余得は幻想にすぎない。60ドルのうち25ドルは、現金ではなく、株式転換ワラントや無担保やジャンクボンドで渡される。

それら現金でも証券でもないものは、急速に価値を失っていく。

そこで年金基金は、その減価していく紙切れを急いで売却する。

売却先は、年金基金をはじめとする他の機関投資家しかない。

他の買い手はいない。このように、財務上の価値さえ、年金基金全体にとっては疑わしいものでしかない。

 

○   株主のためのマネジメント

今日、アメリカの大企業のCEOのほとんどが、「シェアホルダー(株主)の利益」「株主の価値」を最大化するために企業をマネジメントしているという。

過去40年間に得られたマネジメントの仕事と成果に関する第二の定義である。

「利害当事者の利益をバランスさせる」とのコーディナーの言葉ほど格好よくはないが、現実的である。しかし、この定義の寿命はさらに短い。

「株主にとっての価値」を最大化するということは、半年あるいは1年以内に株価を高くすることを意味する。

それ以上の長期ではありえない。しかしそのような資本利益は、企業にとっても大多数の株主にとっても、誤った目標である。

「株主にとっての価値」を最大化することは、永続しない。

 

この続きは、次回に。

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