チェンジ・リーダーの条件⑬
○ 「富の創造能力」を最大化する
ドイツや日本の産業を所有する機関投資家は、マネジメントの仕事と成果を、どのように定義していたのか。
具体的な方法は異なるが、両者の仕事と成果の定義は同じだった。
彼らは、何ものも「バランス」させようとはしなかった。最大化させようとした。
同時に、株主の持ち株の株価や、その他特定のいかなる利害当事者の短期的な利益も最大化させようとはしなかった。
「富の創出能力」最大化させようとした。
この目標こそ、短期と長期の成果を統合し、マーケティング、イノベーション、生産性、人材育成などのマネジメントの成果を財務上の成果に結びつけるものである。
そしてこの目標こそ、株主、顧客、従業員などあらゆる利害当事者を満足させるうえで必要なものである。
この概念の明確な定義へ向けての第一歩が、企業活動にとって鍵となる八つの目標について概説した私の『現代の経営』(1954年)だった。
それらの目標あるいはその若干の変形は、今日にいたるも、日本企業では事業計画の出発点になっている。
○ マネジメントの仕事ぶりを評価する
現在会計事務所が行っている財務監査に似た事業監査が発展する。
3年に1度ぐらいで十分だろうが、事前に定められた基準に基づき、使命と戦略の見直し、マーケティング、イノベーション、生産性、人材育成、社会的責任、利益についての監査が行われるようになる。
すでにそのような事業監査の項目は明らかであり、実行は可能である。
もちろんこの仕事は、事業監査に特化した外部の組織で行われる。
誰がこの道具を実際に使うである。
答えは一つしかあり得ない。活性化した取締役会である。
取締役会を効果的にするには、取締役会の仕事を規定し、その仕事ぶりと貢献について具体的な目標を設定し、実際の仕事ぶりを定期的に評価していけばよい。
取締役会は、その企業にコミットする強力な所有者を代表するとき、初めて効果をあげることができる。
アドルフ・A・バーリ・ジュニアとガードナー・C・ミーンズは、アメリカの企業史上最大の影響力をもった著作『近代企業と私有財産』(1933年)において、企業の所有権が、投資先企業のマネジメントに関心をもたず、コミットもせず、短期の資本利得にのみ関心をもつ膨大な数の無名の投資家へ移行するに伴い、19世紀型の資本家が消滅していくことを明らかにした。
その結果、所有権が支配権から分離し、法的な擬制となり、マネジメントが責任を負うべき対象がなくなると論じた。
その20年後、ラルフ・コーディナーがプロのマネジメントと呼んだものが、この変化を利用した。
年金基金は、企業の所有者になりたくてなったわけではない。
他の選択の余地がなかったから所有者になった。
年金基金は、保有する株式を売却できない。
といって、オーナー経営者にもなれない。
にもかかわらず、企業の所有者である。したがって、年金基金はそのような存在として、権力以上の責任をもたされている。
それは、アメリカのもっとも重要な存在としての大企業の仕事ぶりと成果を確実なものにするという責任である。
この続きは、次回に。