チェンジ・リーダーの条件⑭
2章 いかにして社会的責任を果たすか
○ 組織の存在理由
社会的責任の問題は、企業、病院、大学のいずれにせよ、二つの領域において発生する。
第一に、それぞれの組織自身が社会に与える影響から発生する。
第二に、社会自体の問題として発生する。
いずれも、組織が社会や地域のなかの存在である以上、マネジメントにとって重大な関心事たらざるをえない。しかしこの二つの責任は、まったく異質のものである。
前者は、組織が社会に対し行ったことにかかわる責任であり、後者は、組織が社会のために行えることにかかわる責任である。
現代の組織は、それぞれの分野において、社会に貢献するために存在する。したがって、それは社会のなかに存在する。
隣人として存在する。
社会のなかで活動する。
その為に人を雇う。
組織が社会に与える影響は、それぞれの存在理由とする社会への貢献にとどまりえない。
○ 社会に与える影響に対する責任
故意であろうとなかろうと、自らが社会に与えた影響については責任がある。
これが第一の原則である。
社会に与える影響については、いかなる疑いの余地もなく、その組織のマネジメントに責任がある。
「世論が反対していない」ことなど、言いわけにはならない。
問題に取り組むことは評判を悪くするとか、同業に恨まれるとか、どこからも要求されていないということも、言いわけにはならない。
遅かれ早かれ社会は、そのような社会に対する攻撃とみなす。
そのような影響を除いたり、問題を解決するために責任ある行動をとらなかった組織に対し、高い代償を払わせる。
○ いかにして対処するか
社会的影響に対処するには、まずその全貌を明らかにしなければならない。
では、その明らかにした影響をいかに処理するか。
目標ははっきりしている。
社会、経済、地域、個人に対する影響のうち、その組織の目的や使命の達成に不可欠なもの以外は、すべてなくすことである。
組織内に対するものか、社会や環境に対するものかを問わず、影響は小さいほどよい。したがって、影響を与える原因になっている活動を中止することによってなくせるのであれば、それが最善の解決である。
唯一の優れた解決である。しかしほとんどの場合、活動を中止できない。したがって、一方において影響の原因となっている活動を継続して行いつつ、そこから生じる影響をゼロにするための、あるいは少なくとも最小限にとどめるための組織的な行動が必要である。
ここにおいて理想とすべきアプローチは、影響をとり除くことを、そのまま事業にすることである。
○ 社会の問題を機会に変える
社会的影響に対する責任は、マネジメントの責任である。ただし、それは社会に対する責任ではなく、自らの組織にたいする責任である。
そのような影響は、事業上の機会にすることこそ理想である。
それが不可能なときには、最適なトレードオフをもたらす規制案をつくり、公共の場における討議を促進し、最善の規制を実現するよう働きかけることが、マネジメントの責任である。
社会の問題の解決を事業上の機会に転換することによって、社会の要請に応え、同時に自らの利益とすることこそ、企業の機能であり、ある程度は他の公的機関の機能でもあるからである。
変化をイノベーションに転換すること、すなわち変化を新事業に転換することが、企業の使命である。
イノベーションを技術のことと考えてはならない。
企業の歴史を通じて、社会的イノベーションは、技術のイノベーションよりも大きな役割を果たしてきた。
社会の問題を事業上の機会に転換するための最大の機会は、むしろ新技術や、新製品や、新サービスではない。
それは主として、社会的なイノベーションである。
事実、大きな成功を収めた企業の秘密は、このようなイノベーションにあった。
企業の健康はマネジメントの責任であり、健康な企業と病気の社会とは両立しないからである。
企業が健康であるためには、健全な、あるいは少なくとも十分に機能する社会が必要である。
社会と地域の健全さこそ、企業が成功し成長するための条件である。
もちろん、それらの問題が自然消滅することを望むのはばかげている。
誰かが何かをしなければ、問題は解決しない。
この続きは、次回に。