ドラッカーとの対話 未来を読みきる力 37
● ドラッカー名言録その17 「必要な発明の母ではないが、助産婦である」
「必要(ネセシティ)は発明(インベンション)の母」という古来の格言を、ややひねって
「助産婦(ミッドワイフ)とドラッカーが言い換えたものである。
この「ミッドワイフ」という英語は、「中間の妻」ではなく、昔の言葉である「ミッド=ともに、
ワイフ=女性」から来ているので、「女性とともにある人」という意味である。
日本語でさらにくどく言うならば、「触媒、促進者」、そして最近の流行経営用語に
置き換えるならば、「ファシリテーター」と言うことができよう。
ドラッカーがこの名言の言い換えを、どういう文脈で行ったかを調べると、その前言として、
「技術変化の中で第1のダイナミックな要素で、かつ最も容易に認識されるものは、
経済的な必要性と経済的機会である」と述べている。
すなわち、必要だけでは技術革新は促進されず、そこに市場性、すなわちビジネス・チャンスや
オポチュニティ(機会)が伴わなければならないことをまず指摘しているのである。
さらに技術のみを先行させたり、技術への投資にのみ溺れてしまったりすることも戒めている。
● ドラッカー名言録その18 「デシジョン・メーキングにおいて、2+2=4という具合に、
ドンピシャリの〝正しい答え〟が出てくるものはデシジョンとは言わない」
判断を下す際に、単純に「イエス」か「ノー」でしか言えないようなジャッジメントは、
そもそも判断とは言えないとすら断定する。
いくつかの選択肢があり、いくつかの複数のアプローチや方法が可能なときにのみ、
真に問題となっているのは何かについての正しい洞察を得ることができるのだと説く。
デシジョン・メーキングを重視するドラッカーは「組織とは結局のところ、情報と
決定(デシジョン)の体系(システム)だ」とも言い切っている。
そして情報やアイデアや質問は組織内部からはもちろんのこと、外からも流入してくる。
これを単に面白い(インタレスティング)事項とを截然と区別しなくてはならないという。
そして、前者をめぐる情報にもとづいてデシジョンを下し、それを効果的に実践する場へと
伝達しないと、組織は機能しないとする。
そして、こうした効果的な決定を行うための5つの原則を挙げる。
(1) 問題が一般的なものであり、かつ、それは一定の法則なり原則を確立するような
決定を下してのみ解決されうることを明確に認識すること。
(2) 問題が解決した時に満たすべき要件、すなわち限界条件をハッキリと定義しうること。
(3) 〝正しい解答〟は何かということを事前によく考え抜くこと。
すなわち、その決定を受け入れやすいようにするための条件とか、妥協のあり方とか、
適応や譲歩のしかたなどを考える前に、とにかく必要条件を完全に満足させる解決策は
何かを考え抜いておかなければならない。
(4) 決定それ自体の中に、その決定を実行に移すための方策を必ず組み入れておくこと。
(5) 決定の有効性と妥協性を、その後の現実の成功に照らして検証するため、
<フィードバック・メカニズム>をあらかじめきちんと設けておくこと。
しかも、デシジョンに関しては次の4つの問いに答える必要があるとしている。
(1) この決定に関して知っているべきはだれか。
(2) そのために、どのような行動をとるべきか。
(3) その行動をとるのはだれか。
(4) 行動をとるべき人が所期の目的を達成するためには、その行動の際に必要となるものとして
何を用意しておかねばならないか。
この続きは、次回に。