知識ゼロからのイノベーション入門-アップル②
第3話 真似はしない。盗んで自分のものにする。
・ 考案者本人がつくれなかったものをつくる
ジョブズは発明家ではない。
アップルⅡをつくったのは、ウォズニアックだ。
マッキントッシュの最初のアイデアは、コンピュータ科学者ジェフ・ラスキンが考え、
技術はゼロックスのPARCが開発した。
iPodのコンセプトも、米国を代表するコンピュータ企業だったDECが源だ。
それなのに、ジョブズが模倣者ではなくイノベーターになれたのはなぜか。
アイデアや製品をヒントにして、元の考案者や製作者が考えもつかなかったような革新的で
魅力的な製品をつくり上げる能力が抜群だったからだ。
ジョブズがいなかったら、アップルⅡも、マッキントッシュもiPodも、平凡な製品に
なっていたはずだ。
あるいは、素晴らしいが高価で使えない製品になっていただろう。
・ 優れた芸術家は真似る。偉大な芸術家は盗む。
たとえば、ゼロックスのPARCが試作した「ゼロックス・アルト」は、その後のパソコンの
標準となる機能が数多く含まれる革命的なマシンだった。
だが、販売すれば4万ドルはすることから、世に出ることはなかった。
PARCには多数の見学者が訪れ、その技術を見ている。
その中で「なんで放っておくんだ? 凄いじゃないか。まさに大革命だ」と叫び、
製品化したのはジョブズだけだった。
そこにジョブズの革新性がある。
ジョブズは、マッキントッシュ開発に際して、その「優れた芸術家は真似する。
偉大な芸術家は盗む」という有名な言葉を肝に銘じていたと言っている。
実際、1984年に世に出たマッキントッシュは大評判を得て、その後のパソコンの流れを決めた。
ジョブズは、埋もれているアイデアを掘り起こし、他のアイデアと結びつけ、細部に至るまで
こだわって製品化する。
製品というより、芸術といえるところまで引き上げる。
それは、もはや真似でない。イノベーションそのものになっている。
第4話 人を愛するように仕事や製品を愛する。
・ 人を愛するように仕事や製品を愛する。
ジョブズの特徴は、パソコンを愛していることだ。
その可能性を強く信じ、優れた製品をつくることを使命としている。
ジョブズのイノベーションは、そこから発している。
ジョブズは、「IBMが勝ったらコンピュータの暗黒時代が20年は続く」と危うんだ。
ジョブズは、社内の権力闘争に敗れアップルを去っている。
それは、アップルのイノベーションを止めさせ、業界を停滞させる一因ともなっている。
約10年後にアップルに復帰したジョブズは、停滞した業界を「6ギガバイトは、4ギガバイトより
優れているとかいう話ばかりだ。コンピューティングにはもっといろんなことがあるのに」と
批判し、こう付け加えた。
「世界が少しましなのは、アップルがあるからだ。だから僕はここにいるんだ。
誰かがいいコンピュータをつくらないとね」
そこには、本当に素晴らしいパソコンをつくれるのはアップルだけという使命感と自負心、
そしてパソコンへの愛情があった。
この続きは、次回に。