知識ゼロからのイノベーション入門-アップル①
第5章 [アップル]
スティーブ・ジョブズのビジョン型イノベーション
—-要は「夢」だ
第1話 潜在需要を信じる。見えるニーズは見なくていい。
・ 惚れ込むことがイノベーションの条件の一つ
1976年、スティーブ・ジョブズと年長の友人スティーブ・ウォズニアックは、アップルを設立した。
アップルⅠをつくったウォズニアックは、天才だった。
だが、どこも商品化には興味を示さなかった。
ジョブズは、大きな商売にならなくても友人たちにいくつか売れればいいとアップルをつくったのだ。
2人とも別の会社で働いていて、アップルは副業だった。
ところがアップルⅠは予想以上に売れ、ウォズニアックが「アップルⅡ」をつくった頃から
風向きが変わる。
アップルⅡの素晴らしさに年長資産家マイク・マークラが惚れ込み、経営に加わったのだ。
アップルは、株式会社になった。
・ 昔の自分を思い出すと潜在需要が見えてくる
一方で、ジョブズは、アップルⅡに不満だった。
糖度のパソコンは基板で売られ、ユーザーが自分でケースやキーボードなどを別に買って
組み立てるマニア向け。
当初のアップルⅡも同様だった。
ジョブズは潜在的なユーザーが膨大にいると考えたのだ。
「コンピュータを組み立てたいと思うハードウェアオタク1人に対して、
そこまではできないがプログラミングくらいやってみたいという人が1000人いる。
なぜなら、10歳の時の私がそうだったからだ」と言っている。
ユーザーを広げるためには、パソコンを電化製品のような完成品にすることが必要だった。
ジョブズは、アップルⅡをプラスチックケースに入れ、電源を入れればすぐ使えるようにした。
当時としては画期的な発想だ。
ケース入りのアップルⅡは、大ヒットとなりパソコンの最初の一里塚となった。
ジョブズのイノベーションの第一歩は、みんながパソコンをマニア向けだと思っていた時に
潜在的なユーザーがいると信じたことから始まっている。
その後もジョブズはパソコンを愛し、イノベーションを続けた。
パソコンのマッキントッシュだけでなく、iPad、iPhone、iPodといった革新的な製品で
世界を変えることになるのである。
第2話 当たり前のものをガラリと変えてみせる。
・ 「そんなとこまでやる?」のが改革
「今あるもの」「みんなが当然と思うもの」に「なぜ?」と疑問をぶつけ、
周囲を慌てさせるところから、イノベーションが始まることは少なくない。
ジョブズは、アップルⅡに別の不満を持っていた。
電源装置が熱くなり、それを冷却するファンの音が騒々しかったのだ。
ジョブズは、静かなマシンをつくるために、熱くならない電源装置を探した。
ショップでは見つからず技術者に頼んだ。
法外なギャラを吹っかけられたが呑み、小型軽量で熱の発生も少ない電源を数週間で開発させた。
マシンの小型化、ファンレス化の大きな一歩だった。
当時、誰もがファンの音はうるさくて当然だと思っていた。
それを気にし、何とかしたいと考えたのは、ジョブズだけだった。
・ あって当然のものを取ってみる
ジョブズは一度アップルをクビになり、約10年後に復帰するが、それからも「なぜ?」は続く。
一世を風靡したiMacでは、当時の記録メディア、フロッピーディスクドライブを外している。
ジョブズの判断を危ぶむ声も多かったが、市場に出ると、iMacはフロッピーなしで
飛ぶように売れた。
ジョブズは、iPodでは電源スイッチをなくしたし、iPhoneでは携帯電話につきものの
キーボードをなくしてしまった。
多くの人が、当初は「そんな大事なものをなくして大丈夫か」と思う。
だが、実は「なぜ必要なのか」を考えていなかっただけのこと。
なくしてみると誰も不便を感じないし、しばらくすると、それらがあったことさえ
不思議に思えてしまう。
この続きは、次回に。