認知症はもう怖くない ⑤
シナプスの働きと認知症は比例する
このように、シナプスの役目は神経細胞間で情報を橋渡しすることです。
したがって、シナプスの働きが悪いと脳は正常に機能しません。
シナプスの数(働き)と認知機能は比例するといっても過言ではありません。
だれでも年を重ねるにつれてシナプスの数が減少し、それがひどくなると物忘れの原因になります。
逆に言えば、シナプスでの情報伝達の効率を上げれば、認知機能は高まるということです。
じつは、「ホスファチジルコリン」という物質は、このシナプスの情報伝達機能を劇的に
高める働きを持ちます。
認知機能を高めるための、いくつかの方法
死んだ神経細胞を元に戻すことはできませんが、生きている神経細胞を元気にすることは可能です。
そのためには、シナプスでの情報伝達を促進させる方法が考えられます。
(1) シナプス前終末からの神経伝達物質の放出を増加させる。
(2) 神経膠細胞(神経細胞のまわりにあり、神経細胞を支えるさまざまな働きをする)からの
神経伝達物質の放出を増加させる。
(3) 神経膠細胞・シナプス前終末への神経伝達物質取り込み(受容体に結合した神経伝達物質が
切り離され、フタタ後シナプスに取り込まれる作用)を防いで、シナプス隙間における
神経伝達物質の濃度を高める。
(4) 神経伝達物質の分解を防ぎ、シナプス隙間における神経伝達物質の濃度を維持する。
(5) 個々の神経伝達物質受容体反応を増大する。
(6) 神経伝達物質受容体の数を増やす。
ここでは、シナプス伝達を促進させる方法について、簡単にイメージしていただくために、
荷物を運ぶトラックにたとえてお話しします。
まず、トラックのエンジンをかけるキーを「神経伝達物質」、トラックを「受容体」、運搬荷物を
「情報」と考えてください。
エンジン・キーを差すことは、神経伝達物質が受容体に結合することにあたります。
エンジンをかけ(受容体活性化)、
アクセルを踏むとトラックが動き出します(受容体反応)。
神経伝達物質を増やして情報伝達をスムーズにする仕組み
では、運搬荷物の量を増やすにはどうすればよいでしょうか。
いくつかの方法論が考えられます。
① キー(神経伝達物質)の数を増やす
キーの数(神経伝達物質の量)が多ければ多いほど、当然、多くのトラック(受容体)にエンジンを
かけて動かすことができるので、運搬できる荷物の量(情報量)も増えます。
②トラック(受容体)の搭載容量を増やす
トラックの搭載容量を増やすことでも、運搬できる荷物の量(情報量)を増加させることができます。
実際には受容体が神経伝達物質を受け取る反応を増やすことです。
③トラック(受容体)の数を増やす
トラックの搭載容量が同じでも、トラックの数を増やせば、運搬できる荷物の総和の量(情報量)を
増加させることができます。
④ トラック(受容体)の運搬スピードをあげる
トラックの搭載容量・トラックの数が同じでも、トラックの走る速度をあげれば、
一定時間内で運搬できる荷物の総和の量(情報量)を増加させることができます。
前項の(1)〜(4)が、①の「キー(神経伝達物質)の数を増やす」方法にあたります。
(5)は、②「トラック(受容体)の搭載容量を増やす」ことになります。
(7) は、③「トラック(受容体)の数を増やす」ことです。
ちなみに、アルツハイマー型認知症の進行を抑える薬であるアリセプト(成分名=ドネペジル塩酸塩)は、
神経伝達物質の一つであるアセチルコリンの分解を防いで、シナプス隙間における
アセチルコリンの濃度を維持する薬剤です。
つまり、(4)の方法をとることでアセチルコリンの量を間接的に増やし、シナプス伝達を
活発にさせようとする薬なのです。
しかし残念ながら、アリセプトにはアセチルコリンの量を増やす作用しかなく、
他の神経伝達物質の量を増やすことには働きません。ですから根本的な治療薬にはなりえないのです。
脳内の情報伝達の仕組みの入門編としては、以上でおおよそ推察いただけるものと思います。
これを前提に、次章では「ホスファチジルコリン」について、くわしく説明してみましょう。
この続きは、次回に。