認知症はもう怖くない ⑲
タバコを吸う人は、吸わない人の1.5倍の認知症発症率
喫煙が健康へ悪影響を与えるのはいまや常識中の常識といっていいでしょう。
WHO(世界保健機構)によると、世界における喫煙が原因の死亡者は年間で490万人に及ぶとのことです。
厚生労働省も、喫煙がガン(肺ガン、食道ガンなど)の危険因子であることを認めていますし、
また多くの研究から呼吸器疾患(慢性気管支炎、肺気腫など)や循環器疾患(狭心症、動脈硬化、
心筋梗塞など)などを引き起こすことが指摘されています。
喫煙が、どれだけリスキーであるかを数字で見てみましょう。
たとえば、喫煙者の脳卒中(脳内出血と脳梗塞を合わせたもの)危険率は非喫煙者の1.5倍です。
これは脳血管性認知症の発症率が1.5倍高いことも表しています。
また、喫煙者は、非喫煙者と比較して、アルツハイマー病を含めた認知症発症率も同じく
約1.5倍高いということがわかっています。
高血圧症は血管認知症を引き起こしやすくする
日本高血圧学会は2014年4月、「高血圧治療ガイドライン2014」を公表しました。
それによると、高血圧の診断基準(降圧薬治療開始基準)は従来とかわらず収縮期=140mmHg以上、
拡張期=90mmHg以上となっています。
本書もこれに従い、いわゆる下は90以上、上は140以上の人を「高血圧症」とします。
高血圧の状態では、血管を流れる血液の圧力が高くなり、血管が刺激されるので、動脈が
傷みやすくなります。また、血液を送り出す心臓にも負担がかかります。
その結果、高血圧の状態が続くと、動脈硬化を引き起こし、狭心症や心筋梗塞が発症する危険性が
高くなるのです。
そのうちの多発性脳梗塞や脳内出血は、血管性認知症の原因となります。
久山町研究(1985〜2002年、65歳以上828名)によると、中年の時期に高血圧だと、認知症を
発症しやすいという結果がでているのです。
特に高血圧の人が血管性認知症になる危険性は、血圧値が正常の人と比較して3.4倍高くなっています。
さらに、85歳時に認知機能が低下していた群では、正常群と比較して、五年前の血圧が高値でした。
このことからも、血管性認知症を含めた認知症を予防する方法として血圧コントロールは重要と
考えられます。
糖尿病は認知症発症の危険因子である
生活習慣病と呼ばれる糖尿病は、加齢、遺伝、肥満、運動不足が主な原因とされ、日本では
700万人の患者がいると推定されています。
糖尿病をひとことでいえば、「血糖値、つまり血液中のブドウ糖濃度が病的に高い状態」です。
糖尿病は、「1型」と「2型」に分けられます。
「1型」は、いわば「先天的」に血糖を下げるホルモンであるインスリンの分泌が極度に低下するか、
ほとんど分泌されなくなるので、いわゆる「生活習慣による糖尿病」ではありません。
一方の「2型」が、一般的に「生活習慣による糖尿病」といわれるものです。
糖尿病そのものは、死に至る病ではありません。しかし、糖尿病は、「血管を壊す病気」ともいわれ、
また、合併症を起こしやすくなることや、この項の冒頭のワゴン車暴走のように、意識障害や昏睡を
起こすケースがあるため、その治療が重要となるわけです。
治療としては、投薬のほか、インスリン注射などが一般的です。
さて、糖尿病と認知症の相関関係です。
オランダ・ロッテルダム研究(6370名を対象に二年間追跡調査)で、糖尿病の人は糖尿病ではない人と
比較してアルツハイマー病発症率が2倍高く、インスリンを使わなかった人は、インスリンを使って
治療した人と比較してその発症率が4倍高かったという結果が得られています(Neurology
1999;1937;-1942)。また、前出の久山町研究で、糖尿病および糖尿病予備軍の人は、その対照群と
比較して脳血管性認知症ならびにアルツハイマー病の発症率がそれぞれ2.5倍、3.0倍起こり
やすかったと結論づけています。
インスリンを分解する酵素(インスリン分解酵素)が、アルツハイマー病の原因物質と考えられている
アミロイドβも分解することがわかってきました。ところが、2型糖尿病で血液中のインスリン濃度が
高いとインスリン分解酵素がインスリン分解だけに働き、アミロイドβを分解することができません。
そのため、脳にアミロイドβが蓄積しアルツハイマー病を引き起こすといわれています(ただし最近は、
アルツハイマー病認知症を引き起こす原因として、アミロイドβと共にタウタンパク質にも注目が
集まっています。
この続きは、次回に。