認知症はもう怖くない ㉖
指先を使うことで脳の衰えは予防できる
シナプスの数は常に一定ではなく、脳の活動に応じて増えたり減ったりします。
当然、脳を活性化させればシナプスの数は増え、脳を活性化させていないとシナプスの数は減っていく—–。
このことは、すでにこの章の最初のほうで述べたとおりです。
ふだんの生活で、たとえば指1本を動かすときに、どの指を、どう動かそうなどと、いちいち
考えることはありませんが、じつは、ヒトの指の動きはたいへん複雑な神経回路で調節されています。
ですから、指先を使うことで脳を活性化し、シナプスの数も増えていくのです。
ヒトの大脳皮質の運動野(運動機能を支配している部分)において、上の五分の一が下肢と胸腹部、
真ん中の五分の二が上肢手指、そして、残りの五分の二が頭部顔面を支配しています。
つまり、大脳皮質の運動野においては、上肢手指と頭部顔面の支配領域が、他の領域と比べて
大きな割合を占めていることがわかります。
これはヒトの特徴として、正確かつ微細で巧みな運動をおこなう手指と、豊かな表情と会話などを
司る顔面の運動野が発達しているということを意味しています。
大脳皮質の感覚野(感覚を支配している部分)においても、手指と顔面の支配領域が大きな割合を
占めています。つまり、指先を使って何か作業をしたり、表情豊かに会話を楽しむことは、
脳の広範囲に刺激を与えることになります。
そして、できれば「不快な刺激」ではなく、「快適な刺激」であることが理想です。
楽しい、おもしろい、綺麗、素晴らしい——そんな感情が湧いてくるようなことに取り組んでみて
ください。これは患者さんにも何度となくアドバイスしていることですが、難しいことにトライしたり、
新しいことにチャレンジしたりする必要などありません。
ちょっとした身のまわりのことでも、昔から好きでやっていたことでも、何でもいいのです。
さらに、「何かしら、役割として担えるもの」であれば、その効果は大きくなります。
それは、その人にとって「やり甲斐」につながるはずで、脳に心地よさをもたらす最たるもの
だからです。
水や土にふれ、身体を動かすことの効果
畑仕事や花壇の手入れ、盆栽などで土に触れて植物の世話をすることも、脳の活性化につながります。
毎日の水やりや気候の移り変わりに応じた手入れなど、丹精こめて世話をしないと、植物は育ちません。
じつは、土に触れるのは良い刺激になります。
植物、あるいは動物の世話は、成長を愛で慈しむことで「愛情ホルモン」オキシトシンが分泌され、
シナプス活動を活性化します。
もちろん相手が人であっても、相手を育てたり、いたわったりする気持ちがあれば、その行為から
脳でオキシトシンは発生し、受容体と反応します。
これが繰り返されると他の神経伝達物質も産生され、シナプス活動はさらに活発になるのです。
この続きは、次回に。