認知症はもう怖くない ㉙
楽しみながら学習する方法もある
脳は大きなひとつのかたまりではなく、異なった機能をもつ、いくつかの領域に分かれています。
大きくは、大脳、小脳、脳幹と呼ばれる三つの部分に分かれます。
この中で、人間としての特徴をいちばん表しているのは大脳です。
大脳は、さらに前頭葉、側頭葉、頭頂葉、後頭葉の四つの部分に分かれています。
サルおよびヒトの研究の結果、前頭葉の中の「前頭前野という領域が、脳の他の領域を制御する
もっとも高次な中枢であることが明らかになりました。
前頭前野はおでこのちょうど裏側にあり、人間の大脳皮質の役30%を占める巨大な領域です。
この割合は、人間がいちばん大きく、高度な脳活動をすることで知られている類人猿も、10%以下
しかありません。つまり、生物学的に見た人間の特徴は、「大きく発達した前頭前野をもつ動物である」と
言えるのです。
人間の前頭前野には、
① 思考する
② 行動を抑制する
③ コミュニケーションする
④ 意思決定する
⑤ 情動の制御をする
⑥ 記憶のコントロールをする
⑦ 意識・注意を集中する
⑧ 注意を分散する などの働きがあります。
これらは、まさに人間を人間たらしめている高次の機能であり、前頭前野は、まさに〝人間の心〟
そのものといえるでしょう。また、前頭前野が命令を発することで、脳の、他の領域の機能が働くと
いう点では「前頭前野は、脳の司令塔」ということもできます。
認知症は、海馬の衰えだけでなく、前頭前野の衰えも呼び込みます。
たとえば、一桁の足し算などの簡単な計算問題を解いているとき、すらすらと速く計算するとき、
速く本を音読しているときに、左右の前頭前野を含めた脳全体が活性化していることが明らかに
なっています。それに対して、一生懸命に何かを考えているときや、テレビゲームをしているときには、
前頭前野はそれほど活性化されません。
これらの研究結果は、「計算や音読を毎日おこなうことで、左右脳の前頭前野が活性化し、
それが効果的な刺激となって低下しつつある脳機能を向上させることができる」ということを
示唆しています。
前頭前野を活性化させる学習療法は、以下の二つの基本的な考え方、
1 読み・書き・計算を中心とする、教材を用いた学習
2 学習者《認知症高齢者》とスタッフ《学習療法スタッフ》がコミュニケーションを
とりながらおこなう学習
を基をプログラムされています。
学習療法を通じて前頭前野を活性化することで、脳機能の働きやコミュニケーション能力、
身辺自立性が改善される可能性があります。
最近では、「数独(ナンプレ)」が高齢者にも人気を集めているようです。
私の患者さんの中にも「数独をやっていると、時間が経つのを忘れてしまう」というほど
楽しんでいる方もいらっしゃいます。
もちろん、脳にとって悪くはありません。いまのところ「数独をやれば認知症にならない」とか
「症状が進まない」という研究データはまだ私の手元には届いていませんが、趣味として
大事にしておいたらいいと思います。
この続きは、次回に。