池上彰のやさしい経営学 1しくみがわかる ⑳
Chapter6 「お金の量」が問題—フリードマン
—–「リバタリアン」とは何者か知っていますか?
アメリカの経済学者ミルトン・フリードマンは「輸入関税なんかいらない、公営の有料道路なんか
いらない、社会保障すら必要ない」と主張しました。
この考え方は近年、先進国で支持されてきました。
新自由主義の騎手 フリードマン
ケインズは間違っていたと主張したのが、ミルトン・フリードマンです。
フリードマンは、「新自由主義の騎手」と言われています。
日本で言うと小泉・竹中路線がその典型なんですが、政府は国民の自由を尊重しよう、経済は自由に
すればいい、という主張をしました。
どうしてそういった理論になるのか、その結果どんなことが起きるのでしょうか。
ミルトン・フリードマン Milton Friedman(1912〜2006)
アメリカの経済学者。「シカゴ学派」と呼ばれる一大学派を率いた。
主著『資本主義と自由』。76年にノーベル経済学賞を受賞。
マネタリストとシカゴ学派
フリードマンは、新自由主義者であると同時に、経済をコントロールするためには〝お金の量〟を
考えればいい、とする「マネタリスト」と呼ばれます。
マネタリズムというのは、ケインズの主張する公共事業や累進課税に否定的で、世の中を流れる
お金の量さえコントロールしていれば経済はうまくいくんだよ、という考え方です。
彼はシカゴ大学の教授として、多くの弟子たちを育てました。
彼とその弟子たちはシカゴ学派と呼ばれています。
シカゴ大学は、フリードマンに代表されるような新自由主義、マネタリストの牙城になっています。
新自由主義 Neo-Liberalism
国家による経済への過度の介入を批判し、個人の自由と責任に基づく競争と市場原理を重視する考え。
絶対自由主義 リバタリアン
人間にとっていちばん大事なことは自由である、と考える人のことを「リバタリアン」と言います。
リバティは自由という意味です。
フリードマンは、人に迷惑をかけない限り大人が自由に行動できる社会を主張しました。
マネタリズム Monetarism
市場経済の機能を重視し、政府の政策は貨幣量をコントロールするだけにとどめるべきとする考え方。
シカゴ派:新自由主義とマネタリズムを掲げる経済学派
リバタリアン:経済でも宗教でも政府の介入を嫌う完全自由主義者
社会保障はいらない? —世界に影響を与えた新自由主義
フリードマンは、国の社会保障政策すら必要ない、と唱えました。
どのような老後を送るかは人々の自由に任せればいいんだ、国がわざわざ個人の社会保障に口を
出して税金を集めるのは、自分のお金を自由に使うことへの侵害ではないか、と考えたのです。
彼の思想はアメリカやイギリスの政策に非常に大きな影響を与えました。
禁酒法:アメリカで1920〜33年に実施された酒の醸造・販売・輸入を禁じた法律。
マーガレット・サッチャー首相:1979〜90年まで在任。規制緩和や政府系企業の民営化を行い、
その政策はサッチャリズムと呼ばれた。
ロナルド・レーガン首相:1981〜89年まで在任。福祉予算の削減、企業減税、規制緩和などを行い、
その政策はレーガノミックスと呼ばれた。
「小さな政府」を提唱したフリードマン
フリードマンは、政府は国民の自由を尊重するべきだ、そのために守るべき2つの基本原則があると
言っています。まず、政府の仕事は国防であるということです。
外国の敵から国を守ること、それから国内で同じ国民の暴力などから個人を守ること。
アダム・スミスも、政府がやるべきことの中に、国防や司法行政の確率を挙げましたが、
フリードマンもこれを第一の基本原則としました。
もう一つは、どうしても政府がやらなければいけないことがあれば、政府がやるべきではなく、
なるべく下の地方自治体に任せたほうがいいということです。
フリードマンは「小さな政府」を主張しました。
この続きは、次回に。