池上彰のやさしい経営学 1しくみがわかる ㉒
累進課税も意味がない
前の回では、ケインズは累進課税でお金持ちから税金をとることによって消費活動を増やそうと
いう主張をしていましたね。
フリードマンはそうではありません。一律課税でいいという。なぜでしょうか。
累進課税は所得に応じて税率を高くするやり方ですから、もともと財産を持っている人からは
税金をとることができません。いまからどんどん稼いでいこう、これから豊かになろうという
人から高い税金をとることになるのです。これは言ってみれば懲罰を与えるようなものだ。
これから富を築こうという人に重荷になる。だから、みんな一律の税金でいいじゃないかという
考え方なのです。
ティーパーティ(茶会党)に通じるフリードマンの思想
現代のティーパーティー運動は、税金の無駄遣いをやめて、小さな政府を推進しようという運動です。
そもそもアメリカは高い税金に反対した人たちが建国した国だということを思い出してもらおうと、
ティーパーティーの名前を使っています。
増税に反対し、オバマ政権の大型景気対策や福祉政策を批判しています。
社会保障制度も医療保険制度もやめるべきだ、とにかく税金を減らせというフリードマンの思想は、
このティーパーティー運動にも通じています。
ティーパーティー:政党ではなく市民や保守系の民間組織によるゆるやかな連合体で、2009年、
オバマ政権による大型景気刺激策への反対運動として発生した。
日本における新自由主義政策—労働者派遣の自由化
日本では、この新自由主義的な政策は1996年の橋本政権時代から始まっていました。
橋本内閣は金融ビックバンと呼ばれる金融制度改革を行い、銀行、証券会社、保険会社などに
対する規制を次々と取り払ったのです。
これにより、金融機関の再編が加速していきました。
そして小泉構造改革では、規制緩和の考え方が雇用政策に及びました。
派遣労働の自由化です。
金融ビックバン:日本の金融制度の大改革。徹底的な金融自由化による利用者の利便性向上を
図ることがねらい。橋本首相は98年6月金融システム改革法を成立させた。
派遣労働の自由化:2004年3月に労働者派遣法が改正され、派遣できる対象職種が原則として
自由化され、製造業への派遣も解禁された。
フリードマンの思想を踏まえて考えてみよう
フリードマンのすべてを自由にするという発想、ちょっと新鮮と言いますか、挑発的と言いますか、
非常に刺激になったのではないかと思います。
皆さんは、フリードマンならどう考えるか、ということを自分なりに考えることができました。
そのうえで、その考え方に賛成、反対の意見がありましたね。
それが大事です。経済学者や政治学者が言ったことに対してすぐ賛成、反対ではなく、どうして
そういう考え方が生まれてくるのか、まずその論理を理解することが大事なのです。
フリードマンの新自由主義を高く評価する声かある一方で、これは強い立場、有能な人の論理であって、
弱者には成り立たない理屈ではないのかという批判があることも事実だということです。
私の説明はそこまでにとどめておきます。
倫理を理解することが大事なのです。
[補足講義] アメリカで広がる「行きすぎた新自由主義」への反発
※ 省略致します。
Q 復習問題 6
第1問 フリードマンの理論は、アメリカのブッシュ前大統領にも影響を与えた。
⚪️ ブッシュ大統領は就任時、企業への減税や福祉予算の削減など、新自由主義的な
政策をとっていた。
第2問 「リバタリアン」とは自由を何よりも優先する人のことである。
⚪️ リバタリアンは絶対自由主義者などと訳される。
第3問 フリードマンによれば、会社の経営者は株主のために働くべきだ。
⚪️ フリードマンは、企業の社会的責任は株主への利益を最大化することだと言っている。
第4問 フリードマンの「こんなのいらない」14項目に入らないものは、次ぎのうち3である。
1 社会保障
2 輸入関税
3 学校選択制
⚪️ 3の「学校選択制」。
この続きは、次回に。