超ロジカル思考 「ひらめき力」を引き出す発想トレーニング⑬
✔️ ユニクロが捨て去った常識
当時の業界関係者にとって、それは当たり前のことだった。
皆「アパレル業界とはそういうものだ」という風に世界を見ていたのだ。
ところが、柳井さんにはそれが無駄に見えてしかたなかった。
そのとき、柳井さんの意識の世界に、「高速加工」というモノの見方がひらめいたのだ。
6カ月ではなく2週間で洋服を生産できれば、今街中で流行っている服を量産して店頭の棚に
並べることができる。そして、「買いたい服があるお店」を実現できるのだ。
そのために、SPAと呼ばれる製造小売型のビジネスモデルを確立し、高速加工を可能にした。
この高速加工機能がなければ、フリースブームを起こすことはできなかった。
✔️ 既得権益に縛られる旧来プレーヤー
さて、アマゾンのベゾスに話しを戻そう。
業界の常識を疑うことは、多くの場合、業界関係者を敵に回すことを意味する。
アマゾンもこれまで、バーンズ&ノーブルなどの大手書店チェーンや大手出版社、トイザらスなど
書籍以外の大手小売企業など、並み居る業界の強者と激しくぶつかってきた。
しかし、アマゾンのような素人の方が、玄人に勝ってしまうことがある。それはなぜだろうか。
業界の常識の中には、多かれ少なかれ欺瞞が隠されているからだ。
顧客の利益ではなく、自分たちの既得権を守ろうとする欺瞞だ。
それでは、ここでもうひとつエクササイズをしてもらおう。
Exercise 4-3
あなたがよく知っている業界の常識をいくつか思い浮かべてみてください。
その中に、顧客の利益よりも、事業者の利益の方を優先する欺瞞が隠されていないか考えて
みましょう。
ホームページより抜粋
ぎ‐まん【欺×瞞】
[名](スル)あざむくこと。だますこと。「欺瞞に満ちた言動」「国民を欺瞞する」
業界の常識とは、多くの場合自分たちはプロで顧客は素人だというモノの見方に基づいている。
このため、「顧客には正しい判断ができない」「自分たちがやった方がうまくいく」「自分たちに
とってやりやすいのが正しいやり方である」「だから自分たちは高い対価を求める資格がある」
「それにも関わらず、顧客にはそれがわかっていない」などといった欺瞞が織り込まれやすい。
実際ベゾスは次のようにいっている。
「我々は正真正銘、顧客第一です。しかし、ほとんどの企業は違います。
顧客ではなく、ライバル企業のことばかり気にしています」
つまり、自分の縄張りや既得権を脅かすライバルにばかり意識を奪われるうちに、顧客が
見えなくなってしまうということだ。ベゾスはそこにチャンスを見出し、「顧客に最善の判断を
行う機会を提供する」ことに自社の価値を見出している。その結果、業界関係者が嫌がることを
やったり、時として自社にとっても不利なことを実行に移している。
✔️ ジョブズとベゾスに共通する境遇
ベゾスはこういう。
「私は金の亡者ではなく伝道師だ。ただ、何とも皮肉なことに、伝道師の方がお金を儲けてしまう」
✔️ 常識に囚われるのは、人間の本能
それでは、なぜ我々は常識に囚われてしまうのだろうか。
これも人間の脳の構造にその原因がある。人の意識の世界は、同時に複数のことを考えられない
ようにできている。コンピュータのプロセッサのように、情報をひとつずつ処理していくのだ。
そこに複数の情報を詰め込もうとすると、パンクしてしまう。
しかし、それでは我々が生き抜いていく上で支障がある。
店頭での接客や車の運転など、高度な活動をしようとすると、同時にいくつもの状況判断を
求められる。そこで生まれてきたのが「常識」だ。
ベゾスは「我々は“アンストア”である」といういい方をする。
ここからは、「小売業」というモノの見方自体を疑おうという意思が感じられる。
そうした姿勢から新しい世界の見方が生まれ、新しい成功パターンの発見が可能になる。
そして、それが次の時代の常識になっていくのだ。
ベゾスはユニクロの柳井さんと同じことをいっている。
「よく考えてみれば当たり前のことなのだが、誰もやってないことだった」
✔️ イノベーションを生み出す脳の仕組み
刷り込まれた業界の常識から自由になり、新しい発見ができるようになるためには、業界の
外に出て外部と触れ合うのがいい。近年、オープン・イノベーションの重要性が叫ばれているのは
そこに理由がある。社外と触り合うことで、なぜイノベーションが促進されるのだろうか。
そこには明確な理由がある。ここでまたエクササイズをやってもらおう。
Exercise 4-4-
普段接点のない外部の人たちと触れ合うことがイノベーションの促進につながるメカニズムについて
考えてみてください。
⭐️ ヒント
ステップ1で紹介した、イノベーションを生む脳のメカニズムと関係しています。
ステップ1で、人間の脳がイノベーションを生み出すメカニズムについて紹介した。ここでは、
その続きの話をしよう。人類の歴史を原始時代まで遡っていくと、初めて焼き物をつくったり、
金属を加工したりといった画期的イノベーションが起こった時期と、人類の群れの規模が
大きくなった時期がほぼ一致しているという説がある。
群れの運営スキルが高まり、多くの群れを吸収したり統合することが可能になった結果、
多様なバックグラウンドの人たちが集まって暮らす環境が新たに生まれた。
それがイノベーションを促進したのでないかという仮説だ。
さまざまな経験にタグがくっついて無意識の世界に蓄積されていく。
そして、一見関係のない複数の概念が同時に検索活動に引っかかり、新たなメタ概念が生まれる。
それがイノベーションのメカニズムだった。
そう考えると、バックグラウンドの異なる人が集まることは、これまで入ってこなかった
新しい刺激が入ってくることを意味する。それにタグがくっついて、多様な概念が蓄積されていく。
また、異なる検索パターンを持った人たちが群れの中に入ってくることも意味する。
これが群れの規模の拡大とイノベーションがほぼ同時期に起こっていることを説明するひとつの
モノの見方だ。
この続きは、次回に。