ビジネススクールでは学べない世界最先端の経営学 ⑨
✔️ 企業価値を押し上げるビジネスモデルの条件
現実には、これら4条件すべてを満たすビジネスモデルを描くのは難しいでしょう。
そうであれば関心が出てくるのは、特にどの条件が重要かということです。
そして、アミット=ゾットは、この問いに答える実証研究をしているのです。
彼らが2007年に「オーガニゼーション・サイエンス」誌に発表した論文では、欧米のネット系の
新興上場企業190社を対象に4条件を統計分析しています。
もちろん4条件の定量化は難しいわけですが、彼らは効率性については13項目、補完性は9項目、
囲い込みは15項目、新奇性は13項目の評価軸を基に各社のビジネスモデルを評価し、指数化して
います。もちろん、この指数の正当性も統計手法で確認しています(Construct validity check)。
そして、各企業のビジネスモデル・デザインの4条件と企業価値の関係を統計分析したところ、
以下のような結果が得られました。
結果1 効率性の高いビジネスモデルを持つ企業は、企業価値が高いこともあるが、
そうでないこともある。
結果2 「補完性」と「囲い込み」は、企業価値と統計的に有意な関係を持たない。
結果3 「新奇性」が高いビジネスモデルの企業は、一貫して高い企業価値を実現する。
結果4 しかし「新奇性」と「効率性」の両方が高いと、むしろ企業価値が低下する。
✔️ シンプルなビジネスモデル・イノベーションが必要
これらの結果が普遍性を持つのであれば、「優れたビジネスモデルの本質」について幾つかの
重要な示唆が得られます。
第一に、新興企業のビジネスモデルにおいて決定的なのは、そのデザインが「新奇性」が高いこと、
すなわちイノベーティブであるということです。(結果3)。
すなわち「今までつながっていなかった人と人をつなぐ」「今までつながっていない企業と
人をつなぐ」あるいは「そのつなぎ方を新しくする」といったデザインです。
逆に、この点で従来の企業と大差ないビジネスモデルを組んでいる限り、企業価値は高まらない
ことになります。
第二に、それ以上に興味深いのが、結果1と4です。
結果1が示すように「効率性」を追求するビジネスモデルも企業価値を高める可能性があるわけですが、
しかしイノベーティブなビジネスモデルの企業が「効率性」も同時に追求すると、それは
逆効果となり得るのです(結果4)。
「新奇性と効率性の二兎は追わず、メリハリをつけた方がよい」ということでしょう。
第三に、「囲い込み」と「補完性」が企業価値と関係ないのも、興味深い結果です。
なぜなら、これら二つは「優れたビジネスモデルの代表条件」としてMBA(経営学修士)の授業でも
よく紹介されるからです。もしかしたらこの2条件は、一定の地位を確立した成熟企業にだけ
有用なのかもしれません。
あるいは、この「囲い込み」「補完性」の2条件を満たすビジネスモデルは複雑で柔軟性を欠くので、
上場したての若い企業には必要ないとも解釈できます。
新しい事業に求められるのは「イノベーティブでかつ、シンプルなビジネスモデル」といった
ところでしょうか。
この続きは、次回に。