ビジネススクールでは学べない世界最先端の経営学 ⑩
ビジネスモデルは、戦略ではない
みなさんの中には、そもそも「戦略とビジネスモデルは同じようなもの」と考えている方も
いらっしゃるかもしれません。
冒頭に述べたようにビジネスモデルの定義が曖昧なわけですから、それも当然です。
しかし、ビジネスモデルをアミット=ゾットに準じて定義するなら、ビジネスモデルと戦略は
全く異なる概念です。
前者は「社内外のビジネス取引全体のデザイン」のことであり、後者(なかでも競争戦略)は
「業界内外で企業がどのようなポジショニングを取るかなどの行動パターン」のことです。
したがって、「企業が何かの戦略をとっても、それがビジネスモデルとフィットしていなければ
結局うまくいかない」可能性があります。
この点を検証するため、アミット=ゾットは1996年から2000年までの欧米のネット系企業170社を
実証分析しました。
彼らはまず各国のビジネスモデルを、2007年の論文で効果のあった「新奇性」と「効率性」に
絞って指数化しました。他方で競争戦略は、ポーターの戦略論で有名な「コスト優位戦略」と
「製品差別化戦略」について指数化しました。
前者は「コストを下げて低価格製品・サービスを提供する」戦略で、後者は「同業他社よりも
ユニークな製品・サービスを提供して、プレミアム価値を取る」戦略です(この点は、第3章でも
触れています)。
そして統計分析を通じて、以下のような結果が得られたのです。
結果1 2007年の論文同様に、ビジネスモデルの「新奇性」が高い企業は、やはり企業価値が高い。
結果2 競争戦略のほうでは、差別化戦略が一貫して企業価値を高める。
しかもその効果は、企業のビジネスモデルの「新奇性」が高い時にさらに強まる。
すなわち、「差別化戦略をとって新奇性の高いビジネスモデルを持つ企業」が
最も企業価値が高い。
結果3 コスト優位戦略そのものは、企業価値と統計的に有意な関係を持たない。
結果4 しかし、その企業のビジネスモデルの「新奇性」が高いときに限り、コスト優位戦略も
企業価値を押し上げる可能性がある。
価格の勝負ほど、ビジネスモデルが重要
これらの結果は、大変示唆に富むと私は考えます。
なぜなら競争戦略の通説と合致するからです。
競争戦略論では通常、「コスト優位戦略よりも、差別化戦略のほうがよい」とされます。
実際、結果2が示すように、差別化戦略はそれだけでも企業価値とプラスの関係を持っています。
それに比べると、コスト優位戦略は他社と価格で勝負することですから、どうしても最後は
コスト削減による体力勝負となり、企業が疲弊していきます。
したがってコスト優位戦略だけでは決して企業にプラスとは限りません。
結果3がまさにそれを表しています。
しかし、もしその企業が同時に「新奇なビジネスモデル・デザイン」も持っていれば、やはり
企業価値は高まり得るのです(結果4)。
この結果から筆者がすぐ思いつく例が、米大手小売業のウォルマート・ストアーズです。
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「ビジネスモデルの本質」研究はこれから
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経営学ミニ解説 2
リアル・オプション論
第3章で紹介したリアル・オプション理論は、本書の第19章と第20章でも再度登場します。
そこで、リアル・オプションの考え方をもう少し詳しく解説しましょう。
リアル・オプションを端的に言うと、それは「不確実性が非常に高い事業環境下では、
何らかの手段で投資の『柔軟性』を高めれば、事業環境の下ぶれリスクを抑えつつ、
上ぶれのチャンスを逃さない」という発想です。
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一方リアル・オプションでは、この投資に柔軟性を与えることを考えます。
例えば、「当初計画より4割規模の工場をつくってとりあえず事業を始め、事業を展開することで
市場について学び、何年か後にその市場が本当に『15%に近い成長を実現できる』と確信できた
(=いい意味で不確実性が下がった)ときに限り、追加で残り6割を投資する」という発想です。(図表Ⅱ-b)
逆に、数年後に市場が「2%しか伸びない」と分かれば(=悪い意味で不確実性が下がれば)撤退を
検討すればよいわけですが、それでも損失は4割で済みます。
他方、まだ「15%か2%か分からない(=不確実性が高いまま)」なら4割規模の工場で事業を
続ければよい、と考えるのです。
一見当たり前のような思考ですが、ここの本質を理解することは重要です。
なぜなら、もしこのリアル・オプション型の柔軟性ある投資をしないなら、「15%かもしれないが
2%かもしれない」という不確実性の高い市場では、そもそも投資されないからです。
投資をしなければ、もし15%成長してもそのチャンスをみすみす逃してしまいます。しかし
4割規模でもいいからとりあえず投資をすれば、2%成長だった時の損失も抑えつつ、一方で
15%成長が実現したときのチャンスを逃さないのです。
では、さらに図表Ⅱ-cの下のように、「20%成長にもマイナス2%にもなり得る」という極端に
不確実性の高い市場だったらどうなるでしょうか(図表Ⅱ-c)。
一般に、このような不確実性の高い市場には投資されません。
しかし、リアル・オプションでは逆になります。
なぜなら仮にマイナス2%成長が実現しても損失はやはり4割(40万ドル)で済みますが、
20%成長が実現したときのリターンは計り知れないからです。
このようにリアル・オプション型の投資をすると、不確実性が高いほど投資をしたほうが
潜在的なリターン(オプション価値)が増えるのです。
第3章で述べたように、不確実性が高いシュンペーター型の競争環境では、このリアル・オプション型の
戦略が有効になります。
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第19章と第20章で述べるように、この思考法は、「起業するか、しないか」の意思決定にも重要です。
起業は不確実性が高いのですから、そこで起業家の下ぶれリスクを抑える施策がとれれば、
彼らが上ぶれチャンスを取りに行きやすくなるので、起業が活性化しやすいのです。
最先端の経営学では、リアル・オプションの発想は、他にも海外事業戦略・技術投資戦略・
事業売却など、様々な文脈に応用されています。
日本を取り巻く事業環境の不確実性が今後高まるのなら、リアル・オプションの思考法は
ますます必要となるでしょう。
リアル・オプションの考え方
図表Ⅱ-a 一般的な投資法
図表Ⅱ-b リアル・オプションの投資法(1)
図表Ⅱ-c リアル・オプションの投資法(2)
※ 略致しますので、購読にてお願い致します。
この続きは、次回に。