ビジネススクールでは学べない世界最先端の経営学 ⑪
Part3 先端イノベーション理論と日本企業
第5章 イノベーションの絶対条件! 「両利きの経営」を進めるには
この第5章からは、多くのみなさんに関心があると思われる「イノベーション」について、
最先端の経営学の知見を紹介していきたいと思います。
日本では、イノベーションと聞くと米ハーバード大学のクレイトン・クリステンセンによる
『イノベーションのジレンマ』(翻訳書は翔泳社刊)を思い浮かべる方が多いようです。
しかし、世界の経営学で最も研究されているイノベーション理論の基礎は、「Ambidexterity」という
概念にあるといって間違いありません。
この言葉には「両利き」という意味があるので、本章では「両利きの経営」とでも呼びましょう。
そして、バランスの良い両利きができない企業が陥る罠を、コンピテンシー・トラップといいます。
本章では、経営学の先端で展開されるイノベーションの理論を説明しながら、日本企業への
示唆を探っていこうと思います。
知の検索と深化のかじ取りをする「両利きの経営」
「両利きの経営」の基本コンセプトは、「まるで右手と左手が上手に使える人のように、
『知の検索』と『知の深化』について高い次元でバランスを取る経営」を指します。
イノベーションの源泉の一つは「既存の知と、別の既存の知の、新しい組み合わせ」にあります。
これは「イノベーションの父」とも呼ばれた経済学者ジョセフ・シュンペーターがNew Combination
(新結合)という名で80年以上前から提示している考えです。
言われてみれば、これはある意味当たり前です。
人間は、ゼロからは何も新しいものを生み出せません。
したがって、常にいまある知と、それまでつながっていなかった別の既存の知が新しく
つながることで、新しい知が生まれるのです。
実際、みなさんも日頃様々なビジネスのアイデアを出されていると思いますが、それは多くの場合、
頭の中のどこかで既存の何かと別の既存の何かを、新しく組み合わせているはずです。
例えば「この案件は、以前は途中で立ち消えたけれど、このお客さんと新しく組み合わせみたら
どうだろうか」「この素材を、あの開発中の製品と組み合わせたらどうだろうか」といった
感じです。したがって、企業・人は様々な知の組み合わせを試せたほうがいいですから、
常に「知の範囲」を広げることが望まれます。
これを世界の経営学では「Exploration」と言います。本書では、「知の検索」と呼びましょう。
一方、そのような活動を通じて生み出された知からは当然ながら収益を生み出すことが求められます。
そのために企業は一定分野の知を継続して「深める」ことも必要です。
これを「Exploitation(知の深化)と呼びます。
この知の検索と深化をバランスよく進めていくことを、両利き(Ambidexterity)というのです。
これらの考え方は、1991年に、米スタンフォード大学の著名経営学者ジェームズ・マーチが
「オーガニゼーション・サイエンス」誌に掲載した論文で提示して以来、世界の経営学の
コンセンサスになっています。
「知の深化」に偏りがちな企業組織
現実には、企業組織はどうしても「知の深化」に偏り、「知の探索」を怠りが知になる傾向が
本質として備わっています。
そもそも人・組織には認知に限界がありますし、毎年の予算を立てないといけない企業が目先の
収益を高めるには、いま業績のあがっている分野の知を「深化」させることのほうがはるかに
効率がいいからです。
他方で「知の探索」は手間やコストがかかるわりに、収益には結びつくかどうかが不確実で、
敬遠されがちになります。
この企業の知の深化への傾斜は、短期的な効率性という意味ではいいのですが、結果としての
知の範囲が狭まり、企業の中長期的なイノベーションが停滞するのです。
これを「コンピテンシー・トラップ」と呼びます。
図表5でいえば、点線矢印の方向に傾いてしまうことです。
いま多くのビジネスメディアで「日本企業にイノベーションが足りない」と言われます。
その表層上は様々なことが言えますが、その根底にあるのは、日本企業の多くがコンピテンシー・
トラップに陥っているからだといえるのです。
図表5 「知の探索」と「知の深化」の関係
※ 省略致しますので、購読にてお願い致します。
この続きは、次回に。