ビジネススクールでは学べない世界最先端の経営学 ㉛
第14章 男性中心職場での「できる女」の条件
前章では、広くダイバーシティー経営について議論しましたが、ここではもう少し絞り込んで、
「企業で働く女性」というテーマで、最先端の経営学の知見を紹介したいと思います。
なぜ女性の内部昇進が少ないのでしょうか。そもそも社内に女性が少ない、子育てサポートなどの
体制が足りない、といった制度的な問題が大きいのはいうまでもありません。
しかし実はそれに加えて、組織の本質としての女性にハンディキャップがあることも、経営学では
分かってきています。
今回は中でも「ホモフィリー」という概念を使って一連の研究を紹介しながら、この点を解説して
いきましょう。
✔️ ホモフィリーとは何か
ホモフィリーとは、人と人のつながりを分析する「ソーシャル・ネットワーク研究」の中心的な考え方の
一つです。その命題は、いたってシンプルです。
それは、「人は、同じような属性を持った人とつながりやすい」というものです。
「にたものどうしが繋がりやすい」というのは、みなさんにも直感的ではないでしょうか。
人はそもそも心理的に同じ属性の相手に親近感を持ちやすいですし、属性が似ていれば同じことに
興味を持つ可能性も高くなります。すなわち、ホモフィリーは「人のつながり」における自然な傾向と
いえます。
ホモフィリーは欧米の社会学では1950年代から盛んに研究が進められており、これまで友人関係、
学校、起業家のコミュニティーなど、あらゆるところで「似たような人同士が繋がりやすい」事実が
統計的に確認されています。
みなさんも、自分の友人・知人や、ツイッターなどのSNS(交流サイト)で、「自分に似た人」を知らず
しらずのうちに選んでいることは多いはずです。
ホモフィリーは様々な分野に応用されています。例えば疫学は、「健康な人は、健康な人とつながり
やすい」傾向があることが主張されています。逆に、不健康な人は不健康とつながりやすくなります。
さらに、人はその「つながった相手」から影響を受けやすいとも分かっています。
例えば健康な生活しているAさんは健康に関する知識を豊富に持っていますから、健康なBさんがAさんと
つながれば、BさんはAさんから新しい健康の知識を得て、さらに健康になるでしょう。
この二人の周りには、他にも健康な人が多くつながりますから、この効果は増幅されていきます。
逆に、不健康なCさんは不健康な人とつながりやすく、そういった人たちの生活様式に影響されがちなので、
さらに不健康になります。ホモフィリーは、健康な人をさらに健康に、不健康な人をさらに不健康に
するのです(このテーマに関する最近の研究には、例えば米マサチューセッツ工科大学(MIT)のデイモン・
セントラが2011年に著名科学誌の「サイエンス」に掲載した論文があります。
✔️ 社内の人脈ホモフィリーに潜む二重のハンディキャップ
※ 省略致しますので、購読にてお願いいたします。
正確には、ホモフィリーは女性に2種類のハンディキャップを与えています。
第一のハンディキャップは、女性は「男性のホモフィリー人脈」に入りにくいため、そこで流れる情報・
知識にアクセスしにくくなることです。
第二のハンディキャップは、は、女性のホモフィリー人脈が薄いことです。
各社上層部の情報から、「この人は昇進が早いだろう」と社内で評価されているマネージャー(以下、
ハイポテンシャル人材=HP人材)と、そうでないマネージャー(以下、ノンハイポテンシャル人=NHP人材)に
分類しました。その分類に基づいて統計分析をし、以下の結果を得たのです。
結果1:HP人材かNHP人材かにかかわらず、女性の方が男性よりもホモフィリー人脈を活用できていない。
結果2:しかし、女性のなかでHP人材とNHP人材を比べると、HP人材のほうがホモフィリー人脈を活用
できている。
✔️ マジョリティーにはない苦労
結果1は、そもそも男性中心の会社では、女性のホモフィリー人脈が自然と薄くなる、という「第二の
ハンディキャップ」を示しています。
興味深いのは結果2です。にもかかわらず、HP人材の女性は、NHP人材の女性よりも女性人脈を好んで
活用しているのです。
この結果についてイバラは、「男性中心の企業にいる女性が成功するには、同じ困難に直面したことの
ある女性からのアドバイスが重要だからではないか」と解釈しています。女性には女性特有の仕事上の
悩みがあり、その解決法は男性人脈では得られない、というわけです。
念のためですが、これは女性が男性人脈を頼らなくていい、という意味ではありません。
HP人材の女性のほうがNHP人材よりも「相対的に」同性の人脈を活用している、ということです。
例えば、イバラが1992年に「アドミニストレイティブ・サイエンス・クオータリー」に発表した別の
論文では、ある新聞社の社員140人の統計分析から、女性は仕事に直結した情報を何とか男性人脈から
得ようとし、他方でよりパーソナルなことに関するアドバイス・情報は女性人脈から得ている傾向を
明らかにしています。HP人脈の女性は、男性人脈と女性人脈を賢く使い分けている、ということでしょう。
すなわち平たく言ってしまえば、「男とも女とも上手に付き合える女性が、男性中心の職場では成功
しやすい」ということになります(男性はマジョリティーですから、この苦労はありません)。
当たり前のようなこの結論ですが、ポイントは「ホモフィリーの二重のハンディキャップ」により、
この実現が大変難しいことです。
ホモフィリーにより、男性人脈に女性が入り込むのは難しく、他方で女性人脈はそもそも情報の層が
薄いのです。
第7章でも書きましたが、人と人のつながり(人脈)が、個人の成果・業績に影響を与えることは、経営
学者のコンセンサスになっています。他方、その人脈づくりで女性は二重のハンディキャップがあり、
それは本人の資質と関係のない、ホモフィリー理論に基づいた「組織の本質」として存在するのです。
この問題は、どうしたら解消できるのでしょうか。
私は、このハンディキャップを根本的に解決する方法は、やはり前章で申し上げたように、企業が
多次元で組織のダイバーシティーを高めることだと思います。また、研修などで、女性だけが孤立
しないような意識づけを徹底することも重要でしょう。しかし、多くの企業ではまだ時間がかかり
そうです。とは言ってもこのままでは煮え切らないままになるので、ここから先は、最近の興味
深い研究結果を紹介しながら、私の大胆な仮説提起をしてみようと思います。
この続きは、次回に。