お問い合せ

人を動かす経営 松下幸之助 ㊹

決意が人を動かすケネディ大統領の態度

 

人の心を動かし、人を動かし、その人になんらかの決意、決定をさせるためには、やはりそれなりの

力が必要であろう。なんらかの力がなければ人は動かない。その力とは何か。

説得力といえば説得力でもあろうか、その内容にはいろいろなものがあると思う。

国際政治の場というか、国と国との間にも、そうした力が発揮されることがしばしばある。

かつて、キューバにソビエトのミサイル基地の建設が進められている事実をアメリカが知ったとき、

ときの大統領ケネディはどうしたか。ミサイル基地はすでに九十パーセントまでできあがっていた。

一刻も猶予のならない緊急事態である。ケネディは敢然と立ち上がった。

そしてソ連のフルシチョフ首相に対して、キッパリと言い放った。

 

「アメリカの目と鼻のところに、ソ連のミサイル基地がつくられるということは黙認できない。

アメリカとしては許容できない。だから、その基地をソ連の手で撤去してほしい。もし、ソ連の手で

撤去しないのであれば、アメリカの手で撤去する」

 

この毅然たる通告に対して、ソ連のフルシチョフはどう対応したか。

結論として、そのミサイル基地をソ連自身の手で撤去したのである。

一兵も損せずして、アメリカは自分の主義を通した。

ソ連を動かし、アメリカののぞむとおりの決定をさせた。

なぜ、ケネディは成功したのか。なぜソ連はアメリカの主張をいれたのか。

これについて考える前に、アメリカのもう一つの例、ベトナムの問題を考えてみたい。

ケネディのあとを継いだジョンソン大統領は、ベトナムに兵隊をたくさん送り込んだ。

数十万の兵隊を送って、何年間も戦争のようなことをやって、そして、遂に北ベトナムに負けてしまった。

北ベトナムも強いが、ソ連の方がもっと強大である。その強大な国に対しては一兵も損せずして主張を

通し、平和を得た。ところが、ソ連にくらべれば小国の北ベトナムに対しては、数十万の兵隊を送り、

多数の死傷者を出したあげく、惨敗を喫してしまった。

どこがちがうのか。何がちがうのか。これは結局のところは、指導者のあり方の問題だと思う。

すなわち、ケネディ大統領には断固たる決意があったのである。ミサイル基地の撤去を要求すると

ともに、艦隊を出動させて海上封鎖を行った。キューバをそっくり封じ込めてしまったのである。

ソ連の船がキューバへ行くのも阻止する。阻止するためには、攻撃も辞さない。

悪くすれば、米ソの全面対決、第三次大戦にもつながりかねない。重大な決意である。

それをケネディは断固、行ったのである。その結果、ソ連の船は止まった。

フルシチョフか譲歩したのである。そして、アメリカがキューバを攻撃せず、封鎖を説くなら、ミサ

イル基地は撤去する、というところまで譲歩したわけである。

事は大事に至らなかった。戦争は回避された。そしてアメリカの主張が通ったのである。

ベトナムの場合、そういう強大な、断固たる決意があったのかどうか。そういうものはなく、単に

状況に応じて、ズルズルと派兵の数をふやし、泥沼におちこんだのではないか。

すなわち、こうした結果のちがいは、大統領の決意一つである。

ケネディの断固たる決意が大きな力となってソ連を動かし、その譲歩を引き出したのである。

われわれの日常の活動、企業の活動の上においても、スムーズな活動を進めていくためには、人を

動かすということがきわめて大切である。

いってみれば、日々それが要求されているわけである。

そのためには、大事なことはいろいろあろうが、一つにはやはりこうした断固たる決意というものが

非常に大切となってくるのではなかろうか。

 

 

この続きは、次回に。

トップへ戻る