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書籍「10年後の自分」を考える技術 ㉓

第3章 修正を前提に決断する「一歩を踏み出す行動力」

 

 

✔  目的地へは、いつも「最短ルート」でたどりつけるとはかぎらない

 

精神分析学者のジークムント・フロイトは、

「思考とは、行動の予行練習に他ならない」と言った。

 

経営学者のイゴール・アンゾフは、

「戦略とは、『部分的無知の状態』での意思決定のためのルールである」と

言った。

 

いくら「つながり」を捉え、「先読み」することができたとしても、

意思決定もせず、一歩も動かないのであれば、その「思考」や「戦略」は

まったく意味がないものになってしまうだろう。

 

私はコンサルタントとして企業が「考える」ための手助けを行なっているが、

いちばん重視しているのは、実は「行動」の部分だ。

行動をともなわない思考に価値はない、と思っている。

 

それはなぜか?

 

最大の理由は、行動によってしか、思考の成果を手に入れることができない

からだ。思考はあくまでも「手段」であることを忘れてはならない。

 

その目的は、企業の場合、まずは持続的な成長と価値の創出の実現であろうし、

個人の場合は、より良い人生を送ることに他ならない。

 

「良い人生」とはなんだろうか?

 

人によってその定義は違うだろうが、私のなかでは「のちのち後悔しない人生」

という定義で考えているような気がする。

自分でよく考えて決め、行動したことは、たとえそれが失敗だったとしても

後悔にはつながりにくい。

私にとっての後悔とは、「深く考えていなかった」とか「何も決断しなかった」

ということだ。

 

「目的と手段を履き違えてはいけない」

そう言うと、あたりまえのことのように聞こえるかもしれないが、この関係を

いつもしっかり意識しておかないと、往々にして「考えること」や「戦略を

立てること」自体が目的化してしまう。

 

私はそういう事例を何度も見てきた。

企業でも、戦略やシナリオをつくって満足してしまうケースは本当に多い。

自分自身を振り返ってみても、知らず知らずのうちに「思考のための思考」を

してしまっているときがある。

 

そしてここが重要なところなのだが、目的地へはいつも最短ルートで

たどりつけるとはかぎらない。

この点を、若い人は特に肝に命じてほしい。

 

どんなにすばらしい経営トップがいる企業でも戦略を間違えることは

よくあるし、どんなに頭が良い人でもなかなか計画通りには人生は進まない。

カーナビのようにはいかないのだ。

行動に失敗はつきものである。

 

「未来は予測できない」という事実を受け入れ、そのうえで、起こる可能性のある

未来を複数考える習慣がついたら、「希望的観測に基づいた一点読みの結果、

失敗する」とか「何も考えておらず、あとで悔やむ」といった悪いクセから

抜け出すことができるだろうし、多少の失敗があっても「想定内」と

捉えられるようになる。

 

ここで重要になってくるのは、「行動しつつ修正する」という考え方だ。

 

どうして読み間違えたのか、何が足りなかったのか、どうすれば目的地に

たどりつけるようになるのか——そういったことを考えながら、自分の

つくったシナリオを修正していく。

イメージとしては、「走りながら考えていく」感じだろう。

 

完璧な未来予測を求めると、不確実なことが多すぎて、一歩も動けなく

なってしまう。リスクを過剰に考えてしまうこともある。

そうではなく、「部分的無知の状態」でもいいから、現状の考えられる

範囲でシナリオを考え、実際の行動を移す。

そうすると、動き出すことで新たな情報が入り、視野が広がっていく。

 

行動することで見えてくる「未来」というのは、確実にあるのだ。

その後、新たな知見をもとにシナリオを修正・更新して、そのシナリオに

したがってさらに力強く新たな一歩を踏み出す——こういった一連の

流れがスタンダードにならなくてはいけない。

 

「決断」とは、覚悟を決めて崖から「えいやっ」と飛び下りることのような

イメージがあるが、けっしてそんな単純なものではない。

もっと地道な思考や努力のうえに成り立つものなのだ。

 

 

この続きは、次回に。

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