ブランディングが9割 ⑮
・まだ知らない事実を探すには「当たり前」を疑う
インサイトを探るときのポイントは、自分の常識だけで考えないことです。
「当たり前と思っていることが、実はそうではない」ということが多いため、
行動観察を行う必要があるのです。
人は基本的に、自分の常識のなかで物事を考えてしまうのではないでしょうか。
私も行動観察をしていて、「なんでそんな行動をとるのだろう」と思う時が
よくあるのですが、それはその人にとっては当たり前のことなのです。
自分にとって非常識でも、その人にとっては常識ということに気づくのは、
もしかしたら、同棲や結婚生活をはじめたときかもしれません。
電気を消すタイミング、バスタオルのかけ方、食器の片づけ方など、自分では
当たり前だと思っていたことが、相手に指摘されて「そのルールは自分の家族だけ
だった」ということに気づくことはないでしょうか。
つまり、まずは「当たり前」を疑ってみることが大切なのです。
自分の枠を超えて考えることで、誰も気づかなかったインサイトに気づくことが
あるかもしれません。そして、そこからイノベーションが起こるかもしれません。
世の中には、当たり前を疑うことで新しい商品を生み出した例がいくつも
ありますので、紹介しましょう。
■ 持ち帰るのを楽しくするトイレットペーパー
これは私が開発に携わった商品ですが、マツモトキヨシには、買い物袋や
ラジカセがデザインされているトイレットペーパーがあります。
トイレットペーパーを袋に入れて持って帰る人がいることから、もしかしたら
「持って帰るのが恥ずかしい」というインサイトがあるのではないかと考え、
持ち帰ることを楽しんでもらえるようなデザインのものを開発したのです。
ちなみに、このトイレットペーパーは、世界中の権威あるデザイン賞をいくつも
受賞することができました。
■ 羽のない扇風機
ご存知の方も多いかもしれませんが、ダイソンの扇風機は羽がありません。
「扇風機の羽に子供の手が挟まったら危ない。安全対策はないか」という
インサイトが、もしかしたらあったのかもしれません。
その対策として考えられていたのは、扇風機にカバーをかけることくらい
でした。そんなインサイトをつかんでいたかはわかりませんが、「そもそも
なぜ扇風機に羽が必要なのか。羽のない扇風機はできないか」と思った
のではないでしょうか。
実際には、「体に優しい、ムラのない風」という発想から羽根のない扇風機は
生まれたようですが、結果的に「扇風機にはかぜを起こすために羽が付いて
いる」という常識を覆しました。
■ ゴシゴシしないバスタブ洗剤
ライオンの「ルックプラス バスタブクレジング」は、バスタブをゴシゴシ
洗わなくてもバスタブが綺麗になるという、画期的な商品です。
バスタブを掃除するには、こするのが当たり前と思われていたところ、
メーカーは「こするという作業は3分でも苦痛、できれば解放されたい」
という見えないホンネを探し出したそうです。
お客さんにとっての価値は、高性能な洗剤ではなく、「毎日きれいな
お風呂に入りたい」ということです。
この価値を上手に発見しています。
こすらずに洗うバスタブ洗剤も常識を覆す商品と言えるでしょう。
インサイトについてより深く知りたい方は、次の書籍を参考にしてみて
ください。
・『インサイト-消費者が思わず動く、心のホット・ボタン』
桶谷功 著/ダイヤモンド社
・『「欲しい」の本質-人を動かす隠れた心理「インサイト」の見つけ方』
大松孝弘、波田浩之 共著/宣伝会議
この続きは、次回に。