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リテールマーケティング  ㉕

⑧ 人に代わってAIが接客対応

 

1. AI(人工知能)店員が小売業の接客を可能に

 

これまで多くの小売店は、主に商品力の向上に力を入れてきた。

その結果、今では競争店同士の商品力には大きな違いがなくなってきている。

こうした状況のなかで、競争店との違いを明確に打ち出し、来店客数を

増やすために絶対に欠かせないのが接客力である。

ネット通販で買物をする消費者が増えているなかで、わざわざ店舗に足を

運んで買物をする消費者が多いのは、実際に販売員から商品説明を受け

たり、商品選択の相談をしたいというニーズがあるからである。

そのため、小売業各社は、顧客とじかに接することができる売場での

サービスをネット通販に対抗できる固有の強みとして、ベテランのパート

タイマーなどをコンシェルジュとして配置して接客力の向上に努めてきた。

しかし、その小売業の売場で、近年、AI(人口知能)を活用した接客を導入

する動きが広がってきている。

人間の店舗スタッフの代わりにAIが自然対話を通じて、来店客との接客を

可能にするシステムを、開発メーカーなどでは「AI店員」と称しており、

本テキストでも便宜上その呼称を用いることにする。

ここ数年、さまざまな分野の企業が、人手不足の課題をAIを活用して解決

する方向を模索しており、実際、今日ではAIに触れる機会が多くなっている。

たとえば、百貨店のイベントなどで、人型ロボットの「Pepper(ペッパー)」に

声をかけられたという体験をした方もいるであろう。

Pepperの登場により、AIが身近に感じる場面が増えてきた。

 

2. AIによる接客が必要とされる理由

 

多くの小売業やサービス業で、これまで顧客の信用は販売員の接客力次第で

得られると考えており、その重要なポジションを、AIが代行することに

対しての抵抗はあったと思われる。

それでもAIがこれらの業界で注目される理由は、時代に合った接客サービスの

向上と、インバウンド対策が課題になっているためである。

インバウンド対策については、2021年に開催が予定されている東京オリン

ピック・パラリンピックだけでなく、2025年の大阪万博も見据える必要が

ある。これらのビッグイベントとともに、インバウンド対策が注目される

理由は、訪日外国人客により消費が経済効果につながると期待されている

からであり、そうした課題の解決策と考えられているのが、AIによる接客

ツールを活用することで、人件費の削減以上の効果が得られると期待されて

いる。

このAIによる接客システムが急速に注目され始めたのは、2017年(平成29)年に

開催された「第1回 AI・人工知能 EXPO」がきっかけとされている。

ここで多くの企業やメディアの目に留まったのが、現在「さくらさん」の

愛称で運用されているマルチデバイス対応の接客型バーチャルAIであった。

 

3. AI店員ができること

 

AI店員は来客者の顔を認識し、話しかけると会話が始まる。

質問形式の会話であれば回答率はかなり高く、8割以上正しく返答できると

いう。

「○○売場は何倍ですか」とか「トイレはどこですか」など、相手が人間で

なくても済むような質問は、店頭や入口近くに配置されたAI店員に聞けば、

会話で答え、画面上にはマップが表示される。

顧客は、わざわざ販売員やサービスカウンターを探して聞くというわずら

わしさから解放され、よりスムーズ、かつ、快適なショッピングにつながる。

さらに、AI店員は外国人向けに英語や中国語など他の言語にも柔軟に対応

しており、キーボードからも質問できるようになっている。

AI店員を導入している店舗にとっては、AI店員に興味を持ってもらうことで

店舗に足を止めるきっかけとなったり、コミュニケーションツールとして

活用されることで顧客の店内滞在時間を長くできるというねらいもある。

東京・銀座のフラワーショップで導入されたAI店員の例をみてみる。

 

来店客の顔認識がなされると、質問形式で会話を始める。

会話の内容から、場面にふさわしい花や好みのアレンジメントを勧めて

くれる。認識した顔、交わした会話、購入した花などはデータとして蓄積

され、次回の来店時の会話に生かされる。また、答えられなかった質問が

あれば、それがデータとして残り、次回に生かされるため、AI店員はどん

どん賢く優秀な“人材”になっていくという。また、他店舗展開されている

小売店は、顧客はどこの店舗に行っても、自分の情報が共有されている

AI店員の会話(接客)によって安定したサービスを受けることができる。

同じことを二度言わなくてもよい、自分の好みをわかってくれていると

いうことは、顧客にとって満足度の高いサービスとなる。

このように、小売業の現場にもAI機能が浸透してきたことで、AIはいよ

いよ身近なものになってきた。AI店員の登場は、店舗側にとって人件費の

削減という大きなメリットをもたらす。

会話によって顧客の情報や購買傾向を膨大なデータと照らし合わせて分析し、

より購買意欲を高めるような提案もできることから、今後、AI店員を導入

していく小売業は増えていくものと思われる。

 

 

この続きは、次回に。

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