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リテールマーケティング  ㉞

⑥ お客様は店(人)に、それとも商品につく!?

 

1. 店(人)につく理由とは

 

店(みせ)とは、平安時代の末期に、商人が商品を顧客に見せるため、店頭の

「“見世”棚(みせだな)」に並べたことに由来するといわれている。

かつて、顧客はそうした見世棚を持つ「店」についていた。

店というよりも「店の人」についていたというべきである。

ずっと以前には、店内で店の人が商品を一つひとつ、手でつくり上げていた。

すなわち、食でいえば、酒も味噌も豆腐も、小売店で調合して量り売りを

していたのである。また、非食品の分野では、下駄や傘、呉服も、店の

中央または裏方で手づくりをしていた。

したがって、顧客は店とそこの人を選択する以外に商品を購入する方法は

なかったのである。しかも、店の人は店という対話の場をフルに使って

情報収集し、顧客の家族の様子などを知り尽くしていたのであった。

それが、顧客が店(の人)につく理由である。

 

2. 商品につく理由とは

 

やがて商品はメーカー(製造業)の段階で完成品となり、安く大量に出回る

ようになった。そこで初めて、顧客は店の人ではなく、商品そのものに

つくという状況になったのである。

その後、大量に生産した商品を大量に捌く時代、すなわち需要が旺盛に

なると、メーカーはこぞってマスコミ媒体の広告などを通じて、直接、

消費者を説得し始めた。その結果、商品の選択情報を持った顧客は、店

ではなくて“商品そのもの”を求めるようになった。

店の人にあれこれ訊かれずに買物ができるといった開放感と便利性を得た

のである。

その波に乗り、有力メーカーはマスブランド製品を生み出し、「顧客は

ブランドにつく」という生産者主導の時代を開花させた。

この大量生産に見合った大量消費の社会を実現させたのが、いわゆる

“スーパー”を中心とする量販店の全国ネットである。

スーパーという業態は、消費者が欲するブランドを明確に品ぞろえして

いる。スーパーがそれを価格訴求したとき、それらを購入しようとする

人がいなければ成り立たない。つまり、顧客が店や店の人から“切れて”

いることが不可欠である。

 

3. 再び店(の人)につく理由とは

 

しかし最近、顧客はまた、店(の人)につき始めた。

どうしてであろうか?  その主に理由をいくつか挙げてみる。

 

① 消費者の商品購買に対する選択眼が鋭くなり、モノを使うことに

  新たな価値観を追求し始めた。

② 消費者の鋭い選択眼に対応するために、メーカーが相次いで感覚の

     違う新商品や新用途の商品を打ち出し、販売するにあたっては専門的

     知識が必要となってきた。

③ 単品ではなくて、組合せやコーディネート願望が強まってきた。

④ 不愉快になる買物を拒否して、価格は少々高くても気分のよい応対を

     求めるようになった。

⑤ 商品の情報収集能力や使い方の知識が劣る高齢者が増加した。

     結局、顧客は自分のことをよく知っていて、自分だけが抱く願望を

     満たしてくれる店(の人)につくようになっているのである。

 

4. 対話する人につく理由とは

 

このような時代において、小売店はどう顧客に対応していくべきであろうか。

ただ単に品ぞろえを小売店らしく整えたとしても、一方的な対面販売と

いう売り方を固辞すれば、顧客はついてきてくれない。

小売店らしい売り方とは、対面販売を超えた対話販売によって消費者に

商品の使い方や楽しみ方を教え、そこにサービスとホスピタリティを加えて

提供することである。そのためにも小売店、とりわけ専門店の販売員は、

単に商品の知識を学ぶだけでなく、用途や顧客にとっての利点などを提供

できる対話能力を身につけておくことが大切である。

いつの世も、対話を通じて目の前にいる一人ひとりの顧客にふさわしい

サービスやホスピタリティを商品とともに提供する店(の人)に顧客はついて

いくのである。

 

⑦ “一期一会”に学ぶこと

 

1. おもてなしの原点

 

専門店業界やサービス業界などでは、“一期一会”という言葉がよく使われる。

一期一会とは、茶道に由来する言葉である。一期とは、一生のことである。

そして、一会とは、一回(最初)の出会いを意味する。つまり、茶の席を、

一生に一度きりの出会いと覚悟して、招く側の主人は顧客をもてなし、

招かれた顧客はそのもてなしをありがたく受け入れる。

それが一期一会の精神である。

茶道が発達したのは、戦乱の世の中であった。

武士たちは、明日にも戦で死ぬかもしれない状況に置かれていて、日々、

覚悟の気持ちを持ちながら暮らしていたのである。

それゆえ、一期一会は決して大げさな振る舞いではなく、実感を持って

当時の人々に受け入れられた。

それが、やがて茶道の精神となったのである。

 

2. “一度きり”への熱き思い

 

翻って、ビジネスの世界では、たった一度だけに終わってしまう出会いが

実に多いといえる。だが、それをおろそかにしていてはよい仕事はできない。

「自分が担当した目の前の顧客は今回だけで、もう二度と担当しないかも

しれない。だから、“いい加減に対応してもいいや”と思うか、あるいは

“だからこそ丁寧に対応しよう”と思うべきか」

そうした気持ちは、販売員やスタッフが顧客と交わす挨拶のときの笑顔や

お辞儀などに自然と表れるものだ。

その顧客とは“一度きりかもしれない”から、爽やかな挨拶と丁寧な対応を

することが大切である。

それが、販売員とお店の評価をともに高めることになる。

 

3. 共感を誘う挨拶や言葉づかい

 

仮に、販売員のいい加減な挨拶や言葉づかいなどで気分を害された顧客が

いたとする。そうした顧客は、おそらく“もう二度とその店を利用したく

ない”と思うだろう。反対に、一度だけのつもりが来店だとしても、顧客が

販売員に好感を持ったとすれば、二度、三度と足を運んでもらえるかも

しれない。

実際、リピーターと呼ばれる顧客は、こうして集まるものである。

最初は、通りすがりのつもりで入ったレストランや専門店であっても、

スタッフや販売員の態度、言葉づかいなどに、“いいな”と共感すれば、

少しばかり遠くてもまた行きたくなるという経験は誰にでもあるはずだ。

気持ちの良い挨拶や笑顔をすれば、販売員のその行為が顧客の脳裏に強く

印象づけられ、いつまでも記憶に残るのである。

 

4. 謙譲の美徳

 

今日、“謙譲の美徳”という言葉を聞く機会は少なくなった。

挨拶の基本は、この謙譲にある。譲渡は、文字どおり「相手に譲る」ことを

意味する。譲ることは、相手に対する敬意を表すだけではなく、相手に

あなたの力を感じてもらうことでもある。自分が疲れていても、相手に

有利なことを勧められるのは、精神的、肉体的に余裕があるからだ。

たとえば、電車で席を譲れる人は、真にゆとりのある人である。

譲られた相手は、はっきりとは意識しなくても、譲ってくれた人の力を

感じている。それは、単純な心地よさ以上の“頼もしさ”である。

 

5. 挨拶こそ、最初の関門

 

仕事の積み重ねは、人との出会いの積み重ねでもある。

したがって、一人ひとりの出会いを大切にすることが、結局は顧客を

増やし、リピーターを増やすことにつながる。

顧客だけではなく、店舗の上司や先輩、同僚、取引先の関係者などに

対しても、接し方は同じである。出会いを大切にするとき、気持ちの

よい挨拶は欠かせない。挨拶の心は、まさに一期一会である。

日ごろから適度な緊張感を持って、顧客から信頼される挨拶を心がけ

よう。

一期一会の精神を大切にして、顧客にとって有利と思うことに関して、

一つひとつ譲気持ちを育むことが肝要である。

 

<参考資料>

『美しい日本語と正しい敬語が身に付く本』日経BP社

 

 

 

この続きは、次回に。

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