お問い合せ

リテールマーケティング  ㊽

④ 苦情クレームと愛情クレーム

 

1. 極めて重要なクレーム対応

 

「クレームの対応方法に企業の姿勢が表れる」といわれるほど、クレームの

対応は極めて重要である。クレームに関しては、多くの小売業が重要な

問題であると十分認識しているはずであるが、思うように実行できていない

のが実状である。

 

そのクレームには次の2つの意味がある。

 

① 苦情としてのクレーム

 

これは、商品の購入によって顧客が受けたダメージや不合理を、小売店に

対して補償という形で請求することをいう。この場合、受け手の小売店が

“苦情を処理する”という考え方で対応すれば、おそらく顧客は二度とその

小売店に足を向けることはないだろう。

 

② 愛情としてのクレーム

 

これは、商品の購入によって顧客が受けたダメージや不合理を、小売店に

対して改善という形で要求することをいう。この場合、受け手の小売店が

“愛情を返答する”という考え方で対応すれば、おそらく顧客はその小売店の

ファンになるであろう。

 

このようにみると、「クレームの多い顧客ほど固定客になる」という

考え方は正しいとはいえない。何とかその場を収めたとしても、顧客は

納得していないことが多い。したがって、クレームが発生した時点で、

まずその内容が顧客の苦情か、それとも愛情かを的確に判断すべきである。

仮に、愛情クレームと判断したならば、それを固定客化のスタートラインと

考え、顧客のもとへ足しげくアフターサービスに通い詰める勇気と根気、

そして元気が必要である。

クレームにどう対応する(した)かは、小売業の顧客に対する姿勢そのもので

ある。いくら企業内で現状の問題点を改善したからといって、すぐにクレームを

断ち切ることができるほど甘いものではない。

それでは、小売業はクレームにどのように対応すれば良いのであろうか。

その1つの答えは、クレームの原因を調査し、それが発生する構造その

ものを抜本的に改革し、同じ苦情クレームを二度と起こさないように組織

風土を変革させることである。

ある飲食チェーンでは、顧客のクレームや要望をそのつど社内で協議し、

そのクレームの内容と対応の答えを「ご意見回答書」として公表している。

具体的には、どう改善したのか、あるいはもう少し待っていただきたい

旨などを明記して、各テーブルの上にメニューとともに置いているので

ある。これによって、顧客はその企業の経営態度がわかる。

小売業の販売活動は、企画提案型の教育を徹底して行うところを除けば、

競争店との間にそれほど差はみられないはずである。どんな店舗でも、

ほぼ同じような販売計画や顧客管理などを行っている。

それにもかかわらず、クレーム対応に関しては企業(店舗)間で大きな差が

ついているのが実状である。なお、クレーム対応についての詳細は、第4部

「クレーム対応の基本手順と取組み」を参照のこと。

 

2. クレーム対応のコストは購買促進費

 

次に、小売業A社とB社のクレーム対応の違いをみていく。

 

・A社—「クレーム対応は、本業に支障がない範囲で実行せよ」

・B社—「すべての業務を中断させてでもクレーム対応を優先せよ」

 

両者の違いは一目瞭然である。

A社はどう対応してよいか不明確で消極的である。

余計な時間と経費がかさむため、労力は最小限にとどめたいという姿勢で

ある。

これに対してB社は、クレームは後処理業務ではなく最優先事項であると

いった姿勢がにじみ出ている。重要なことは、クレーム対応のコストを

アフターサービスに伴う購買促進費と考えることである。とはいえ、実際の

クレーム対応はそう簡単なことではない。できればクレーム報告は聞き

たくないというのが管理者の本音であろう。

また、すぐに業績に反映しないクレームだからこそ、管理者はその対応の

重要性を理解しようとしないのである。売上目標の達成だけに目を奪われ、

クレーム対応の巧拙を的確に評価できない小売業は、本当の満足を顧客に

提供できるはずがない。

顧客重視型の小売業は、販売員のクレーム対応に正当な評価を行っている。

部下からクレームの報告を受けたときときこそ、管理者は落ち着いて

「苦情クレーム」か「愛情クレーム」かを判断しなければならない。

そのうえで、的確なアドバイスを与え、迅速な行動に移るべきである。

クレームがあった場合は、顧客に心から謝罪し、誠意を伝えて理解して

もらう経営姿勢が大切である。

 

表4-1 苦情クレームと愛情クレームへの対応の比較

 

[苦情としてのクレーム]

・クレーム発生の責任は、担当者や担当部署にしっかりフォローしてもらう。

・「それは私の担当ではありませんので、担当者と代わります」と対応する。

・クレームの顧客に対し、言い訳ではなく、こちらの正当性だけはしっかりと

 伝えるべきである。

 

[愛情としてのクレーム]

・クレームを起こした責任を問うのではなく、報告の遅れや対応の不備に

 関して厳格に注意する。

・小売業の従業員はパートタイマーも含めて、すべて同様のクレーム対応を

 行う。

・小売業の正当性よりも、顧客の満足度を優先した対応が不可欠である。

 

出所:表2-1と同じ

 

 

 

この続きは、次回に。

トップへ戻る