リテールマーケティング ㊿-4
⑦ ポイントカードとFSP
1. 顧客はポイントカードの特典に魅力を感じていない
今日までの日本の小売業は、会員制による固定客化を販売の手段として
捉え、スタンプサービスやポイントカードを実施してきた。
そうした小売業の多くは、競争店の値引き対策を見据えた来店客数の
増加策としてポイントカードなどに取り組んできたが、販売促進(割引
手段)の一環としてスタンプカードやポイントカードを実施することは、
実は自店の収益性を引き下げる要因となっていたのである。
それでも多くの小売業がポイントカードを導入してきたのは、実施すれば
それなりの客数増加が見込まれたからである。
ところが近年では、ポイントを貯める楽しみを味わってくれる顧客は減少の
一途をたどっている。なぜなら、顧客は小売業の提示する特典そのものに
魅力を感じなくなったからである。同様のサービスはどんな小売店でも
実施しており、目新しさはなくなっている。しかも、ポイントを貯めて
そこそこの商品と交換するためには、買物先の小売店を絞り込み、頻繁に
通い続けなければならない。
一方、小売業の立場からみると、顧客の獲得競争が一段と激化している
今日では、ポイントカードが集客の切り札と錯覚する事態になっている。
入会時の景品として高級・高額な商品を用意したり、“雨の日はポイント
3倍”などを実施している。その結果、販促費の増加に伴い、利益の一環
としか捉えていないためである。商品やサービス、価格などで競争店と
明確に差別化できている小売業は、あえて実施していないという共通点が
ある。
2. FSPで大切な顧客を自店につなぎ止める
FSP(フリークエント・ショッパーズ・プログラム)を一言でいうと、多頻度
利用顧客に向けた特典(サービス)提供プログラムである。
比較表(表7-1)で示したように、FSPはポイントカードとはすべての面で
異なるシステムである。
日本では、クレジット会社をはじめとしてガソリンスタンドや百貨店など
多様な業界が取り組んできたが、近年では売り上げ低迷に頭を悩ます小売
業界がこぞって導入している。しかしながら、導入企業の多くはFSP本来の
機能を発揮できず、ポイントカードサービスの領域から脱却していない
のが実状である。
FSPの基本は、すべての顧客を利用頻度と購買特性によって識別することに
ある。購買頻度が高く、しかも多くの利益をもたらせてくれる顧客ほど、
より大きな特典やサービスを受けられる仕組みである。
小売業を経営するうえで最も重要な問題は、何らかの理由で顧客はいつか
必ず支持してきた店舗から離反していくということである。逆にいえば、
小売業は大切な顧客ほど、しっかり自店につなぎ止めておかないと、自店
より優れたサービスを行う競争店に奪われてしまうのである。
したがって、あらゆる小売業は、既存の顧客のなかから優良顧客を探し
出し、優良顧客を固定客化することによって生涯にわたって維持していく
仕組みを構築する必要がある。販売促進の強化策としてポイントを増やし、
短期的な売上増を見込むのではなく、長期的な視点で顧客とよい関係を
つくり、自店へのロイヤルティを高めることが地域のなかで生き残る秘訣で
ある。FSPは、この考え方の実行手段といえる。
したがって、FSPは、一人ひとりの顧客の購買データを蓄積し、それを
分析、活用することによって顧客に対するマーケティング策を講じることに
特徴がある。
表7-1 ポイントカードとFSPの比較
[ポイントカード]→[FSP]
目的: 競争店の値引き対策→顧客の識別による優良顧客の維持・離反防止
戦略の展開
戦略目標:来店客数の増加策(商品を販売した自店で目的を達成)→来店客の
質の向上策(顧客によい買物体験をしてもらう)
利点:ポイントの蓄積による割引、もしくは商品との交換効果→優良顧客との
生涯にわたる信頼関係の形成。非優良顧客の排除に伴う利益率の向上
(すべての顧客に差をつける)
問題点:誰にでも平等なポイントや特典の提供(すべての顧客を平等に扱う)。
ポイントの拡大(2倍、3倍など)による費用の増加→FSP実施体制の
確立意識の希薄化。顧客データ活用の不備。
チラシ広告による特売との併合。売上至上主義からの未脱却。
カードの意味:カードはポイントを貯めるためのもの→カードはID(本人確認)と
購買データの分析による顧客識別のもの。
出所:表2-1と同じ
<参考文献>
鈴木 豊『マイクロマーケティング入門』PHP研究所
鈴木 豊『「顧客満足」を高める35のヒント』PHP研究所
この続きは、次回に。