リテールマーケティング ㊿-5
第6部 再度確認しておきたい基本用語解説編
① チェーンストア理論の「3S」
Simplification、Standardization、Specialization。
この3Sをキーワードとしてチェーンストアのマネジメントを行う。
単純化(Simplification)—————
店舗運営のルール(規格化)にはいくつかの条件がある。
まず、楽に作業や業務を実行するために、単純化(Simplification)の概念を
導入する。ルールを決めても実行されないのは、複雑で実行するのに困難を
伴うか、わかりにくく、そのつど、解釈が必要になり困惑する場合である。
単純化は、行っている業務や作業のなかから、一部をやめることを決める
ことから始める。つまり、ある業務をしないで済ませる、もしくは店舗では
やめて物流センターや本部全店分をまとめて行う仕組みを作ることである。
作業や動作が今までどおりのままで新たにルールを決めても、実行が困難な
場合が多いからである。
たとえば、① 店舗ごとの発注をやめて、物流センター(DC=在庫型セン
ター)に常駐する社内ディストリビューターが、そのDCの供給先である
数十店分の発注数を決める。② 店内で実施していた肉や魚のプリ・パッ
ケージ作業をプロセスセンター(PC=加工処理センター)に集約して、最新の
機械設備を使って衛生管理を万全にしながら一挙に作業する。などである。
これによって店舗段階の作業は大幅に単純化される。
チェーンストアの経営システムは、店舗数の増加によってコストを引き
下げていくことに特徴がある。したがって、店舗段階の業務や作業の
単純化は、店舗数増加に多大な影響を与えることになる。
また、一連の作業を分断して未熟練者でもこなせる作業を独立させることも
単純化につながる。一般に、チェーンストアの店舗運営における一連の
作業のおよそ8割は、未熟練者でもできる単純作業である。
チェーンストアの大半が、2割の熟練者でなければできない作業を含んで
いるために、8割の単純作業まで人時コストの高い熟練者が担当することに
なっている。それは店舗段階だけでなく、本部の作業でも同様である。
したがって、単純化すれば、どんな販売員でも実行しやすくなり、ミスも
起こりにくく、コストも低く済む。
標準化(Standardization)——–
標準化(Standardization)は、チェーンストア・マネジメントの武器と
いえる。なぜなら、科学的な調査と実験により、ベストの方法を突き詰めて、
すべての店舗の運営方法などをそのベストの方法に合わせることで、計画
どおり最良の結果を導き出すことができるからである。
作業と業務を単純化してルールを決め、標準化を進めるのは本部の担当者で
ある。
標準化にあたっては、プロジェクトチームを編成し、そのチームが調査と
実験を繰り返して、ベストの方法を導き出し、全社に普及させるのが
一般的である。
まずは単純化する部分を決め、使う道具と動作および手順を決める。
道徳的な期待は一切せず、注意深い人が実行しても、そうでない人が
実行しても、ルールどおりにすれば同じ結果が得られるように制度化する。
つまり、手順を標準化すれば、自然に結果が標準化できることになる。
アメリカのビッグチェーンは、立地も、入居するショッピングセンターの
タイプも、店舗面積も、フロアゾーニングも、フロアレイアウトも、棚割も、
すべて画一化している。ただ同じように規格化するのではなく、顧客に
とっても店舗にとっても一番よい状態がわかっているから適切な標準化が
できる。つまり、店舗が画一的であるためにオペレーション・システムが
標準化されやすく、結果として経営効率も標準化するのである。
一方、日本のチェーンストアは標準化を徹底していない。なぜなら、地域や
気候、そして文化などの差異があり、販売効率だけを追求できないからで
ある。したがって、したがって、支店経営方式を取らざるを得ない。
紹介された物件で立地を決め、敷地面積に合わせて店舗設計を行い、
フロアレイアウト(実際には什器の配置)を決め、フロアゾーニング(品群
構成)は後回しとなっている。
店舗をそのつど、オーダーメードしてきたために、オペレーションの
標準化にはむずかしい面がみられる。
□ プロジェクトチーム
特定の事業や計画などを実現するために組織されるビジネス上の実務集団。
プロジェクトの規模や質によって効率的なマネジメントを行うため、
企業や部署を横断して人材が集められ、チーム編成されることもある。
□ 画一化(かくいちか)
ものごと全体を同じ様子・状態に揃えること。または、そのように揃って
いくこと。
専門化(Specialization)——-
専門化(Specialization)とは、チェーンストアにおける組織体制の確立の
ための5原則(① 専門化、② 責任と権限の明確化、③ 命令系統の統一化、
④ 管理・調整範囲の確定、⑤店舗運営責任の決定)の1つである。
チェーンストアの本部は、従業員に1つか2つの限定した業務を与えることに
よって、専門化を追求する。すなわち、専門化によって、従業員は短期間で
そのセクションの専門知識を習得することができる。
したがって、当該業務に専念する従業員の生産性(業務遂行の効率化)は、
著しく改善される効果がある。
この続きは、次回に。