書籍「すごい物流戦略」DHL②
● ドイツポストと日本郵政。大型買収の正否を分けたものとは?
ドイツポストが実施した大型買収の中で、やはり目を引くのは旧DHLの
買収だと思います。
ところで、このDHLはどんな言葉の略なのかご存じでしょうか。
かくいう私も、最近まで、DHLの人に聞くまで知りませんでした。
DHLの略は、DHLの創業者Dalsey’ Hillblom’ Lynnという3人の頭文字です。
彼らが「米国本土からハワイへ船便で荷物を送るのに、荷物がハワイに
到着するよりも先に飛行機でハワイに渡り、書類による通関書類を済ま
せておけば、荷受人のもとに早く届けられる」ということをヒントに、
1969年に米国サンフランシスコで創業したのが始まりです。
1998年に旧DHLの株式の23%を取得したドイツポストですが、すでに
世界中にネットワークを構築していた同社を、どうしても手に入れたか
ったのでしょう。
2000年から完全子会社化を目的とした交渉を開始します。
そして2002年7月、ルフトハンザ航空から25%を取得、株式保有の割合を
75%にまで高めます。さらに同年12月には、念願の100%子会社化を実現
させました。
ちなみに最後に、ドイツポストに株式を売却したのは日本航空(JAL)で
した。最終的な買収金額は24億ユーロ(1ユーロ=130円とすると、約
3100億円)だったと言われています。
旧DHLは2000年7月当時、世界中で7万1000人以上の従業員を抱え、
220ヵ国以上のネットワークを保有していました。
元国営企業による大型買収といえば、日本でも、2015年の日本郵船子会社
・日本郵便による豪州物流大手のトール・ホールディングス(以下、ト
ール社)の買収があります。
買収金額は約6200億円で、日本企業が関わった2015年のM&A案件で上位
3番目に入る規模でした。
ところが日本郵政は、2017年3月期決算で同社への投資に関し4000億円と
いう巨額の減損を計上してしまいました。
ドイツポストのDHL買収の成功と、日本郵政のトール社買収の失敗。
この対照的な結果には、買収にかけられた時間が大きく影響していると
思います。
先述したように、ドイツポストは1998年に旧DHLへの資本参加という
かたちで23%の株式を取得し、その2年後に100%子会社化の交渉を旧
DHLとスタートさせ、主要株主の株式を少しずつ取得していきました。
最終的には4年間という時間を要しています。
それに対し、日本郵政の買収は拙速だったと言われます。
同社は2015年11月に株式上場を果たしますが、そこで調達した資金を
もとに投資家にわかりやすい成長戦略を示す必要があったのでしょう。
その目玉といえるのがトール社買収でした。
この買収決定までにかけられた時間はかなり短かったと言われ、しかも
ドイツポストが旧DHL買収に要した2倍以上の金額を一気に投資に向けて
しまいました。
欧米企業のM&Aは総じて段階を経て行いますが、日本企業の場合、東芝、
リコー、NTTなどの海外企業の買収で失敗と評される案件の過程を見ると、
短期間のうちに一気に買収を決めてしまうことが多いようです。
この用意周到さの違いが、その後に成果につながっているのだと思います。
この続きは、次回に。