田中角栄「上司の心得」㉞
聞き手との「一体感」を醸(かも)せるかどうかが最大のポイント
そうした田中の圧倒的に多くの人を納得させる、言わば〝必殺話術〟を
整理してみると、筆者は次の5カ条ほどに絞ることができると分析した
ものだった。交渉事の場でも、心しておくと必ず役立つと思われる。
① 何を話したいのか、まず話の冒頭で結論を示す。また、話のテーマは
一つか、多くても二つくらいに絞る。それ以上、話題を広げても、
聞き手、話し相手には印象が残らない。
そのうえで、暗い話はできるだけ避けたほうが得策ということになる。
② とくにスピーチでは、聞き手との「一体感」を醸すことに全力を
挙げよ、である。ここが最大のポイントでもある。
また、独りよがりの話、自慢話は、じつは相手の中に何も残らない。
また、しゃべっている人物のレベルがのぞかれてしまうことにもなる。
③ たとえ話を、できるだけ織り込む。これにより聞き手に情景が浮かび、
理解しやすいというメリットがある。また、「数字と歴史」を折り込む
ことが何より強力な節得力になるとは、先に記したとおりである。
④ 聞き手、話し相手への問いかけ、同意を得ることを心掛けよ。
「角栄節」には、随所に「そうでしょう、皆さんッ」といった、
〝問いかけ〟が入るのが特徴であった。
⑤ 声には、力を入れよ。蚊の鳴くような声では、スピーチ、商談など
交渉事、個人的会話、いずれも説得力の足を引っ張ることになる。
そのうえで、相手の目を真っ正面から見て話すことだ。
相手は、そこに一所懸命さを見てくれる。
また、時に相手の自尊心をくすぐることも、かなり有効であることを
知っておきたい。このくらいの話術テクニックを体得すれば、周囲、
部下の評価は間違いなくワンランク上がること必定である。
● 圧倒的
他より非常に勝っているさま。「圧倒的に強い」「圧倒的な支持を得る」
● 得策
利益のあるはかりごと。うまいやりかた。「引き受けるのが得策だろう」
● 一体感
集団が一体化し、一丸となっている感覚。
● 醸す(かもす)
1. 麹 (こうじ) を発酵させて、酒・醤油などをつくる。
醸造する。「酒を―・す」
2. ある状態・雰囲気などを生みだす。「物議を―・す」
● 自慢話
得意になって聞かせる話。
● 情景
心にある感じを起こさせる光景や場面。「幼いころの―を思い浮かべる」
● 同意
1. 他人の意見などに対して、賛成すること。
「同意を得る」「提案に同意する」
2. 同じ意見。同じ考え。「同意の士を募る」
3. 同じ意味。同義。
● 蚊の鳴くような声
蚊の羽音のように、かすかで弱々しい声。2017/12/07
● 一所懸命
「一所懸命」[イッショケンメイ]は、「昔、武士が賜った『一か所』の
領地を命がけで守り、それを生活の頼りにして生きたこと」に由来した
ことばです。 これが「物事を命がけでやる」という意味に転じて、文字の
ほうも「一生懸命」[イッショーケンメイ]とも書かれるようになりました。
2000/01/01
● 自尊心
自分の人格を大切にする気持ち。また、自分の思想や言動などに自信を
もち、他からの干渉を排除する態度。プライド。
「自尊心を傷つけられる」
● 体得
体験を通して知ること。理解して自分のものにすること。「技を体得する」
● 必定(ひつじょう)
1. そうなると決まっていること。必ずそうなると判断されること。
また、そのさま。「このままいくと、失敗は必定だ」
2. 仏語。必ず成仏 (じょうぶつ) すると定まること。
この続きは、次回に。