お問い合せ

田中角栄「上司の心得」㊸

・有能な部下の「損失補填人事」を忘れてはいけない。

 

前項で部下が本当に困っているとき、上司とし物事の〝抜け道〟、すなわち

そこから脱出させるための「けもの(獣)道」を教えてやれなくてどうすると

記したが、もう一つ忘れていけないのが人事についてである。

いまはポストに不遇をかこつが、新しい部署に就かせれば、必ず実力、

能力を発揮してくれそうだという有能な部下に対して、自分がある程度、

人事に影響を及ぼすポストに就いたら、どこかで処遇してやるべきである。

直属の部下だったそうした人物には、目をかけておきたいものである。

また、そこまでやってくれた上司がピンチに立ったとき、こんどは報恩のため、

時にはあらゆる犠牲を払ってでも支援に回ってくれるのが、こうした部下で

あることを知りたい。上司たる者、部下への人事の損失補填は、出来る

限りやってやれということである。田中角栄については、首相時代に大蔵省の

事務次官人事で、次のような例がある。

時の大蔵大臣は、ライバル関係にあった福田赳夫である。田中が首相に

なるに際しての自民党総裁選では、両者、泥沼の「角福戦争」を演じた

ことは知られている。その福田が、後任次官に自らに近い主計局長の

橋口収を推した。慣例からすれば、主計局長は次官の〝待機ポスト〟で

あり、福田としても常識的な選択をしたことになる。ところが、田中は

この〝橋口案〟に難色を示し、自らに近い主税局長だった高木文雄を推した

のだった。結局、田中、福田の神経戦のあと、福田が田中の顔を立てた

形で、「高木次官」を実現させることになったのだった。だが、一方で、

主計局長が次官になれずで面目を潰された橋口としては立場がない。

ここで、田中の打った手が素早かった。当時の大蔵省詰め記者の証言が

残っている。

「次官だった相沢英之が、橋口の処遇を田中に相談に行った。田中は、

その場で経済企画庁に電話を入れ、通産省枠だった経企庁の次官に、橋口を

起用せよと命じた。しかし、通産省が抵抗、なかなか埒が開かなかった。

そうした中で、田中はすでにもう一案を持っていたのだった。通産省が

どうしてものまない場合は、折から国土庁の新設が決まっていたことから、

田中はただちに橋口の国土庁初代次官を念頭に置いていたのだった。

国土庁次官が決まったあと、それまで田中に不満を抱えていた橋口も軟化

田中とのわだかまりは急速に氷解していった」こうした田中の省庁人事の

損失補填への目配りはまだ多々あり、これも田中が官僚を掌握できた

大きな側面であった。

 

● 不遇をかこつ

 

不運や不遇を「かこ(囲)う」ではなく「かこつ」というのが正しい

ことばで、漢字で書くならば「託つ」。

「かこ(託)つ」は、この場合は不平を言う、嘆くなどといった意味です。

ほかに「他の人や物事のせいにする、口実にする」という意味もあり、

こちらは「託(かこつ)ける」ということばに生きています。

2011/08/22

 

● 報恩

 

1. 恩にむくいること。恩返し。

2. 仏・祖師などの恩に感じて仏事・布施などを行うこと。

 

● 損失補填

 

証券会社などの金融商品取引業者が、株式、債券など有価証券の売買で

生じた顧客の損失の全部または一部を穴埋めすること。

金融商品取引法日本証券業協会などの自主規制規則で、損失保証・

利回り保証、損失補てんの申し込み・約束および損失補てんの実行を

禁止しています。ただし、売買注文の誤発注やシステムトラブルといった

「証券事故」による損失補てんは認められており、そのために証券会社や

金融先物取引業者証券取引責任準備金を積み立てています。

 

● 泥沼

 

一度落ちこむと抜け出ることが困難な悪い状況。「泥沼の紛争」

 

● 慣例

 

繰り返し行われて習慣のようになった事柄。

しきたり。ならわし。「慣例に従う」

 

● 埒が開かない

 

らちが明かない」とは、ものごとがいつまでたっても進展しない、

はかどらないという意味でよく使われます。

この「らち」は漢字で「」と書き、囲いや仕切りを意味します。

もともと馬場の周囲に巡らした柵のことをさしていたそうです。

2018/07/09

 

● 軟化

 

主張・態度をやわらげ、穏やかになること。また、穏やかにすること。

「深夜に及ぶ説得に態度を軟化させる」⇔硬化

 

● 氷解

 

氷がとけてあとに何も残らないように、疑念や疑惑がすっかりなくなる

こと。「多年の疑問が氷解する」

 

● 掌握

 

《手ににぎる意》自分の思いどおりにすること。全面的に自分の支配下に

置くこと。「政権を掌握する」「部下を掌握する」

 

 

この続きは、次回に。

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