お問い合せ

田中角栄「上司の心得」㊻

ポイントは「明るく叱れる」技術

 

そのうえで、加えたいもう一つの「叱り上手」の押さえどころは、〝明るく

叱れ〟ということになる。

暗い顔、重い口調での「叱る」は、部下が深刻に受け止め過ぎ、明日には

つながらないタブーである。これは、「叱り下手」ということになる。

そのタブーで、とくに留意しなければならないのは、部下の性格の欠点を

指摘しないことだ。とくに、今の時代は大きな問題になりかねないから

絶対のタブーと言っていいだろう。そこをうまく避け、明るく、カラッと

叱ることが肝要だ。

例えば、「おまえは気が小さいから困る」「雰囲気が暗くて損をしている」と

やれば、部下は一番表に出して欲しくない部分を突かれたことで、ショックが

少なくない。人格の否定にもつながりかねないから、次のような言い回しに

換えることを心掛けたい。

「もう少し元気を出してみれば、お得意さんの評価はグンと上がるぞ。

そうなりゃ、オレも嬉しいな」

田中角栄は部下である田中派若手議員などに、手取り足取りで物を教えると

いうことはしなかったと先に記した。「ワカッタの角さん」と言われた

ように、のみ込みが早く気も短く、かつ多忙な人でもあったことから、

言うなら「そんなことが分からんのか」と、一言〝言い置く〟という

叱り方であった。

例えば、選挙が近づくと、すでに自ら情勢調査を済ませている田中は、

苦戦気味の田中派若手議員に、よくこう一喝していた。

「おまえ、出会う有権者の気持ちが、いまどこにあるか分かっているのか。

それも見抜けず、選挙に勝てると思っているのか。甘く見るな。一から

(戦略)やり直せッ」

結果、選挙戦の劣勢を立て直して挽回、当選を果たして田中のもとに挨拶に

やってきたそうした議員に、自ら相手の手をギュッと握りながら、破顔

一笑、こう言うのだった。

「おまえ、ナカナカだな。ワシの見込んだ男だけのことはある。これからは

勉強、勉強だ。やがての大臣は間違いないぞ」

絶妙のフォローと言える。ここでは、一喝されたショックの尾を引くものは

なく、わだかまりのない上司と部下の関係が浮かび上がる。こうした形で、

田中派は常に田中への求心力を中心に一枚岩の強さを発揮、「田中軍団」

として自民党内の権力抗争で他派を寄せつけることがなかったということで

あった。

こうしたことをビジネス社会の上司になぞらえれば、叱ったあと「よしっ、

小言はこれで終わりだ」で、部下を居酒屋あたりに引っ張り出すのも

いいかも知れない。ここでは、多少、話を盛ってもかまわない。

「オレも、昔、ちょこちょこ失敗をやって、当時の上司、今の社長には

ずいぶんドナられたものだ。しかし、すべて勉強になった。頼むぞ。

期待している」とでも、〝一芝居〟打てるような上司なら、間違いなく

部下は育ってくれる。「強将の下に弱卒なし」ということである。

 

● 留意

 

ある物事に心をとどめて、気をつけること。

「健康に留意する」「留意点」

 

● タブー(taboo/tabu)

 

《(ポリネシア)tapu(はっきり印をつけられた、の意)から》

1. 聖と俗、清浄と不浄、異常と正常とを区別し、両者の接近・接触を

    禁止し、これを犯すと超自然的制裁が加えられるとする観念・風習。

    また、禁止された事物や言動。未開社会に広くみられる。禁忌。

     禁制。「宗教上のタブーを犯す」

2. ある集団の中で、言ったり、したりしてはならないこと。

      法度 (はっと) 「彼にはその話はタブーだ」

 

● 肝要

 

《人間の肝 (きも) と扇の要 (かなめ) の意から》非常に大切なこと。

最も必要なこと。また、そのさま。「何事にも辛抱が肝要だ」

 

● 言い置く

 

「言い残す」「言い置く」は、去る人や死んでいく人が、あとに残る人に

伝える意。

 

● 破顔一笑

 

破顔一笑」とは、にっこり笑う様子をあらわす四字熟語だ。

「顔が破れる」と書くので、相好を崩して大笑いするような印象があるが、

実際は「破顔」は顔をほころばせること、「一笑」は軽く笑うという意味

なんだよ。2019/07/05

 

● 求心力

 

1. ⇒向心力 (こうしんりょく) 

2. 他人を引きつけ、その人を中心にやっていこうとさせる力。

  「首相の求心力が低下する」⇔遠心力2

 

● 向心力

 

円運動をしている物体が受ける慣性力の一。円の中心に向かって働き、

運動の速度が一定のときは物体の質量に比例し、円の半径に反比例する。

求心力。⇔遠心力

 

● 一枚岩

 

1枚の板のように平らで大きな岩。また、そのように、組織などが

しっかりとまとまっていることのたとえ。「一枚岩の結束を誇る」

 

● 権力抗争

 

対権力闘争(たいけんりょくとうそう)とは、政府など権力に対する闘争。

暴力革命を成就させるために、警察などの機関を弱体化させる闘争である。

 

● 話を盛る

 

内容を適当に誇張することを意味する語。

 

● 一芝居

 

人をだましたり目的を達成したりするために、計画的に仕組む筋書。

 

● 強将の下に弱卒なし(きょうしょうのもとにじゃくそつなし)

強い大将のもとには、その感化を受けて弱い兵はいない。

勇将の下に弱卒なし。

 

 

 

この続きは、次回に。

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