お問い合せ

田中角栄「上司の心得」㊽

一喝された元学生運動闘士

 

もう一つ、こんな好例がある。すでに亡くなったが、斎藤隆景という

新潟県六日町(現・南魚沼市)で病院経営を立ち上げ、新潟県議会議員も

務めた元学生運動の闘士がいた。田中にかわいがられ、東京・目白の

田中邸への出入りは自由で、田中と話をすることも多かったのである。

筆者は、田中が脳梗塞で倒れる前から、この斎藤を何回か取材したことが

あった。斎藤は、次のような田中に一喝されたときのことを話してくれた

ことがある。時に、中曽根(康弘)政権時で、斎藤が一方で親しくしていた

3度目の大蔵大臣を務めていた竹下登について、田中と話をした時のことで

ある。田中と竹下の間に、田中派後継問題が絡んで溝が生じていた頃の

それである。斎藤は言った。

「じつは、竹下先生に私の地元新潟のある団体の大会に出席、ご挨拶を

して頂こうとお願いにあがった。竹下先生からはオーケーが出、私は

オヤジさん(田中)にその旨の報告で目白邸に行ったんです。そのとき、

竹下先生はなぜ幹事長になれないのかの話をした。ところが、話を聞いて

いたオヤジさんが、突然、顔を真っ赤にして怒りだしたんだ。

オヤジさんは、こう言っていた。

『若い者たちは、よく〝竹下なんて〟といったような言い方をするが、

相手は大蔵大臣だ。なんで、おめぇみたいなヤツが、大蔵大臣をどこかに

呼んだり、安っぽく使うんだッ。竹下は、将来、自民党を背負っていく

人物だ。そういう人物が、国の財布の中身を知らないでどうする。

だから、今は大蔵大臣をやってもらっているんだ。みんなが、〝竹下を

幹事長にしろ〟などと言っているが、大蔵大臣で力をつけることが先だ。

おめぇらは、何もわかっちゃいないッ』と。オヤジさんは、竹下先生と

距離を取りながらも、人物を見誤ることはなかった。あのオヤジさんに

目をすえて一喝され、私もさすがに震え上がったものです」

ここでも、先の中曽根政権を担いだときの田中派中堅・若手議員に対し

てと同様、田中は人を見る目を磨けと、その必要性を説いたということ

だった。同時に、竹下への見方を吐露したことで、部下に対して好き嫌い

ではなく、能力評価には情実を入れず、最後は正当にその力量を評価する

ことが上司の要諦と教えたということであった。

 

● 闘士

 

1. 戦闘や闘争に従う人。 また、社会運動などで活動する人。

2. 戦闘的な人。

 

● 脳梗塞

 

脳梗塞とは、脳に酸素や栄養を送っている動脈に血行不良により、神経

細胞が死滅してさまざまな症状をきたす病気のことです。

脳梗塞は、脳卒中のうちのひとつです。

一時的に血管が詰まる一過性脳虚血発作(TIA)は、24時間以内にもとの

状態に戻るため原則として後遺症を残すことがなく、脳梗塞とは区別され

ます。しかし、原因が取り除かれない場合には再発することがあり、

やがて脳梗塞となる危険性もあります。

 

● 吐露

 

心に思っていることを、包み隠さないで全部述べ表わすこと。

心の中を打ち明けること。 心の底から誠をもって語ること。

 

● 情実

 

1. 個人的な利害・感情がからんで公平な取扱いができない関係や状態。

  「情実を交える」「情実にとらわれない」「情実を排する」

2. 実際のありさま。実情。

  「諸国の―を問い」〈藤村夜明け前

3. 偽りのない気持ち。まごころ。

   「―互に相通じて怨望嫉妬の念は忽ち消散せざるを得ず」

    〈福沢学問のすゝめ

 

● 要諦

 

物事の最も大切なところ。肝心かなめの点。

ようたい。「処世の要諦」

 

 

 

 

この続きは、次回に。

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