お問い合せ

田中角栄「上司の心得」2-⑥

「ご苦労さんの一言、当然ではないか」

 

衆参両院の事務局職員と言うのは、法案が本会議での議題となるまで、

議員たちの大変な〝影の力〟になっている。

法案が衆参両院に提出されると、次に委員会に付託され、ここでの審議

議決を経て、初めて本会議の議題となる。

この間、職員たちはすべてに不備はないかと、1本の法案の成立まで

気持ちの休まるところがない。その苦労ぶりを、議員立法33本と言う

〝離れ業〟をやってきた田中は、苦労人だっただけに身にしみて分かって

いたということだった。

また、首相官邸の正門を通って車で退出するときも、必ず田中はわざわざ

車の窓を開け、直立して敬礼するボックス前の警備の警察官に、例のポーズで

右手を挙げて応えていた。これにも、前出の田中派担当記者の話がある。

「歴代首相の中に警察官の敬礼に車の中で小さくうなずいた者はいたが、

わざわざ窓を開けて応える人は一人もいなかったとされている。

ために、そうした警察官の中からは、『田中先生のためなら、オレは

矢でも鉄砲にでもなれる』という声さえ挙がった」

田中は、そうした声にケロリとして言っていた。

「皆、一所懸命に働いている。『ご苦労さん』の一言くらいは、当然の

ことじゃないか」

上司の「信望」とは、こうした些細な心配りの中から生まれるのだという

ことも心したい。「心理戦争」の勝者とは、必ずしも大それたことの中で

生まれるわけではない。

 

● 付託

 

物事の処置などを任せること。特に、議会で、議案の審査を本会議の

議決に先だって他の機関に委ねること。「特別委員会に―する」

 

● 審議

 

ある物事について詳しく調査・検討し、そのもののよしあしなどを

決めること。「原案を審議する」

 

● 不備

 

1. 必要なものが完全にはそろっていないこと。また、そのさま。

  「防災設備に不備な(の)点がある」

2. 文意が十分でないという意で、手紙文の最後に添える語。

    不一。不尽。

 

 

 

この続きは、次回に。

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