田中角栄「上司の心得」2-⑧
「行くところがないからワシのところに来た。
助けてやるのは当然」
老母は、「角、頼むのう」と言いつつ、玄関口まで出た。
ここでまた、早坂は田中の凄さを見たと言った。
玄関口まで送った田中は、ごった返す靴や下駄の中から、「これか」と
言いつつ老母の下駄を自ら手元に引き寄せて足元に揃えてやったという
のである。
老母が去ったあと、早坂が「オヤジさん、ばあちゃんにあそこまでいろ
いろとやってやる必要があるんですか」と語りかけると、田中はこう言って
ニヤリ笑ったそうである。
「ばあちゃんは、行くところがないからワシのところに来たんだ。
助けてやるのは当然だろう。ばあさん、新潟に帰ったあと、『角が、
おらのためにみんなやってくれた』と親戚、近所にふれ回ってくれる
んだ。これ以上の〝選挙運動〟はないだろう」
息子を捜す老母の頼みを〝快諾〟加えて警察庁長官まで動かすという
べらぼうな「角栄流」こそ、田中いわくの「世の中で一番広い中間地帯、
グレーンゾーンを取り込む」ことの見事な実践であった。
ばあさんの〝謝意〟は、間違いなく次の選挙で何票かの「田中票」を
上積みすることになる。
なるほど、田中は選挙に強かったと言うエピソードである。
● 快諾
依頼や申し入れを快く承諾すること。「資金の援助を快諾する」
● 承諾
相手の意見・希望・要求などを聞いて、受け入れること。
「上司の承諾を得る」「依頼を承諾する」
● 謝意
1. 感謝の気持ち。「御厚意に心から謝意を表します」
2. 自分の過ちをわびる気持ち。「謝意を表して辞任する」
● エピソード
ある人について、あまり知られていない興味ある話。逸話。
この続きは、次回に。